耕作さんの畑で実ったトウモロコシ食って幸せになろう。｜リアクション

耕作さんの畑で実ったトウモロコシ食って幸せになろう。

　九夜山。
　畑家とは、ご近所さんにあたり、同じく農業に従事する納農園の納十一は、偶然通りがかって口をポカンと開けた。
　畑家の庭先は、バーベキューなどの準備をする若者達に混じって、大黒柱の耕作が何事か叫びながら、しがみついてはやんわり拒絶されるという、何だか筆舌尽くしがたい状況になっていた。
「耕作さん、こんにちは！」
「十一くんっ！」
　思い切って挨拶してみれば、かっ飛んできた耕作が、十一をハグろうと涙ながらに腕を広げ、孫のそふとに即座に足を掛けられ、目の前で地面に張り付いた。
　この間、僅か５秒。
「ひっ！！？」
　思わずドン引きする、十一。
「相手にしないでいいよ、十一くん！　何か、キリないし」
　そふとの顔が、ひきつっている。
　しかし耕作は、顔を上げると土に塗れたまま、十一への溢れる感謝を口にする。
「十一くんも来てくれたんじゃな！！　いつもワシらに声を掛けてくれて、ありがとう！　家族ぐるみで仲良くしてくれて、ありがとう！　ワシの最愛の孫の話し相手になってくれて、ありがとう！！　うちの近所の家に、生まれてきてくれて、ありがとう！！　ワシャ、この素晴らしい奇跡に、いくら感謝してもしても、しきれんくらいじゃ！」

「うわぁあ！？　今日の耕作さん、なんかすごくきもい（直球）」

　躊躇なく言い切る、十一。
「でもパーティやってるみたいだし、おれからも色々もってくる！　ピーマンとかぼちゃ、あと茹でた枝豆とかもいいね！　トマトやきゅうりも、冷やして家から持ってこよっと」
　自分ちの農園に引き返しながら、十一はスマホで仲良しグループに、このイベントを報せるのだった。

「ふうん、トウモロコシパーティ？　暇だし、僕も手伝ってあげても構わない」
　少し尊大な態度の瀧原玲衣は、寝子高の３年生だ。オフでは派手なウィッグを被って、女装しているので彼だと気付かれていないが。

　山積みのトウモロコシを前に、赤い瞳を輝かせているのは２年生の柿内友子である。
　とにかく食べる事が大好きで、授業中と寝ている時以外は、常に何かもぐもぐしている彼女も、トウモロコシの皮を剥くお手伝いを始めた。

「わぁ、粒が揃ってて綺麗♪」
　アイドル志望の夢宮瑠奈も、作業を覗き込むと、大きな瞳をキラキラと煌かせる。
「あ、先輩かな？　あたしは芸術科の夢宮瑠奈です、今日はよろしくお願いします」
「私は柿内友子、よろしく～。一杯食べましょう」
「よろしく」
　玲衣も軽く会釈する。

「あ、そういえば、トウモロコシのお髭ってお茶になるんだって」
　瑠奈に指摘され、髭を皮と一緒に捨てようとしていた、先輩二人の手が止まる。
「ダイエットの効果もあるみたいだから、貰っていきたいな～」
　友子が思わず、最近、前のめりになって食べるとき邪魔になっている、自身の胸を見下ろした。
「最低１日は乾燥させなくちゃいけないから、すぐに完成とはいかないけど。乾かしたら、あとは白いところだけ煮出せばいい、お手軽仕様だから」
　天気は良いから、乾燥にはうってつけだろう。
　瑠奈は、そふとに頼んで新聞紙を貰うと、回収したトウモロコシの髭を縁側に並べ始めた。
「こんな可愛らしい嬢ちゃんが、ワシが育てた野菜を、余すところなく使ってくれる……丹精込めて育てたかいがあるというものじゃ、ありがとう――っ！！」
　感極まった耕作が、瑠奈の足元に這い蹲る。
「このジジイ、今ちょっと頭ヤラレておかしいんで、気にしないで下さい先輩！！」
　そふとが必死に取り成すが、瑠奈は屈みこむと、耕作の節くれだった手を取って微笑を向ける。
「はじめまして、瑠奈です！　おいしいトウモロコシをいただけるって聞いて来ました！　耕作さん、素敵なお誘い、本当にありがとうございます♪」
　まさに天使の微笑み、感極まる爺。
「おお……おおぉぉお――！！」
　すでに人間の言葉の体裁すら、保っていない。
「さあ、耕作さん面を上げて。一緒に楽しみましょう」

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