耕作さんの畑で実ったトウモロコシ食って幸せになろう。｜リアクション

耕作さんの畑で実ったトウモロコシ食って幸せになろう。

「うわー、みゆみゆキモい。何このジャージ集団、キモ……うわぁ、こっちきたー！　アーッ！！」
　動画を撮影していた、十一が深雪の熱い抱擁でへし折られ、沈められた（比喩表現）。
　見た目は可憐だけど、ピアニストは腕力あるんです。十一は泡を吹いて、くったり。
「十一くん！？　死ぬなっ！？」
　米太郎が倒れた十一を、縁側に引き摺っていこうとして深雪に捕まり、やっぱり沈められた。

「ダメだ、手は尽くしたが……もう俺の力では止められない……見捨てる俺を許してくれ、ミユ……！」
　修はとりあえず、自身の安全を図るため、ジリジリと深雪と距離を取った。

　しかし深雪の様子に、逆に理性を取り戻した（？）のが、渚砂である。
「深雪ぃ！　な、なんで色んな人に抱きついたりなんかして……！　お兄さんを置いて嫁に行っちゃうのか！？　本当は欲求不満で、誰でもいいから抱きつきたかったのか！？」
　悲しみに打ちひしがれる、渚砂。
「……気がつけなかった、お兄さんを許してくれぇ！　今夜は赤飯炊くからっ、せめて、せめて幸せになってくれ……深雪！」
　例え血は繋がらなくとも、麗しき兄弟愛。この瞬間、霧生家の夕飯が決まった。
（霧生渚砂　神魂からの精神干渉に抵抗成功！）

「……やっぱり加工しても駄目か」
　さらっと深雪を実験台にしていた事を、暴露した月詠だが、自分でも臆する事無くプリンを試食する。
「いただきます」
　丁寧に裏ごしし、作ったプリン。プリンの滑らかさの中に、トウモロコシの甘さを舌の上で実感させてくれる、素朴でありながら、極上のスイーツになっていた。
「いただきました」
　トウモロコシへの感謝と共に、手を合わせる。
「先輩は大丈夫なんですか？」
　そふとの問いに、月詠は小さく笑みを零す。
「君の目には、そう映るかい？　……御馳走様でした」

「やれやれ、付きおうておれんわ……」
　皆から離れ、大田原いいなは焼きもろこしを１本だけ持って、するすると木に登った。
　木々を通る風は、気持ち良い。見下ろす景色も、格別だ。
　だが心は晴れない。皆と共にいることを避けて、いいなはトウモロコシを一口齧る。

　……未だに、夏は苦手じゃ。
　暑いが、肌は出しとうない。
　海開きもあったが、行きたくはなかった……。
　もう宿敵はここにはおらぬ、じゃが……。
　一言だけでも、伝えたいものじゃな。

　雫が、いいなの頬を濡らした。

『貴様のこおと、有効活用させて貰っておるのじゃ、感謝する』

「このトウモロコシ、ちと塩辛いのぅ……」