耕作さんの畑で実ったトウモロコシ食って幸せになろう。｜リアクション

耕作さんの畑で実ったトウモロコシ食って幸せになろう。

「ほう……どうやらこのトウモロコシを食べると、無作為に感謝の念を述べたくなるようじゃな……また『神魂』か」
　冷静に周囲の様子を観察していた大田原いいなだったが、叔父の望月がバター醤油トウモロコシを振り回しながら、叫ぶ様子に盛大な溜息をついた。
「……ああもう、叔父貴まで！」

　トウモロコシを一口、頬張った美咲紀も、感動に打ち震えていた。
「これぞ大地の恵みっ!　大自然と農家の皆さんに感謝なのですよ!」
　トウモロコシをもきゅもきゅと咀嚼しながら、傍に居た真央を熱く抱擁する。
　真央は真央で、ハッピーすぎてお目目がグルグル。
「美咲紀ちゃん、ラヴそしてラヴなのだ～」
　美咲紀のバラ色の頬に、ハグハグちゅっちゅ♪
「やっぱり朝採りトウモロコシは、美味しいです……神魂の影響など関係なく、畑で採れたての野菜は美味しいのですよ。しかも同じ新聞部の、真央ちゃんとこの感動を分かち合えるなんて、なんてラッキー！」
「はぐはぐ……世の中が幸せいっぱいに見えるのだ美味しいのだ感謝なのだ！」
　嬉しすぎて、流れる涙が止まらない。後、お口モグモグも止まらない。

「美咲紀、焼き加減どう？　全体に均等に火が通るように、尚且つじっくり焦げないように火を通したんだぜ？　収穫したてだったら塩だけでも、十分おいしいはず！」
「美味しいです！　最高の焼き加減ですぅ!」
　畑を愛する者同士、遠慮がない美咲紀。感謝の念を込めて、十一に躊躇せずハグ。
　真央もそれに追従した。
「わわわ、美咲紀、急にどうした！？　え、そんなに美味い？」
「こんなに美味しいとうきび、ありがとうなのだ～！」
「真央までっ！？　ナニコレ！！？　あ、米兄ちゃん」
「十一くん、一体どうしたって言うんだい……？」
　訝しむ十一の横で、やっぱり混乱してきた事態に首を捻りながら、米太郎も焼きもろこしをパクリ。

　突如現れる謎の背景（イメージです）。
「……！　これは……！　この芳醇な香りと甘み……！　コーンの粒が、舌の上でシャッキリポンと踊る……！　これぞまさしく野菜の真珠箱やっ、て……ちがぁう！？」

　米太郎の中を、怒涛のように駆け巡るロゴスとパトス。

　何だろう、このトウモロコシに愛を叫ばなくちゃいけないような気がしたけど、何か凄く恥ずかしいぞ！
　落ち着け、落ち着くんだ！
　そうだ素数を数えよう……っていうか、前にもこんな事あったようn……ごふぅっ！？

　米太郎は思い出した、思い出してしまった……。
　脳裏を過ぎる、あの雨の日。そして輪ゴム。

「待てー！　僕の熊吉先生に手を出すなァ！！（リフレイン）」

　クマを助けるためだったとは言え、屋上から大声で叫んで、皆の注意を引きつけてしまったあの日。
　しかもジャージを肩から羽織って、雨の中強引にはためかせ悪目立ちまでした。
　ちなみにセリフはゲームマスターによる、脚色だ！
　こんないたいけな米太郎を弄ったりして、畜生、担当誰だっけ！？

　――ともあれ、米太郎の社会的地位がログアウトした、悲しい事故だった。

　思い出してしまったがゆえに、米太郎は今回も神魂による精神への干渉を、拒絶する事に成功してしまっていた。
　君に限っては、いっそ失敗したら、きっと楽だったのに……。

「……やばい死にたい」
　頭を抱えて、号泣し始める米太郎。イキロ。
　（新井米太郎　神魂による精神干渉への抵抗成功！）