突然の決戦は寝子ヶ浜海岸｜リアクション

突然の決戦は寝子ヶ浜海岸

「制服はダメでぇ、やっぱり漂流物ですかねぇ」
　ふわりは最初の考えに立ち戻って動き回った。探す場所を拡大して、間もなく喜び勇んで戻ってきた。
「ノスタルジックな感じが当たりっぽいでしょ」
　焼き菓子が入っていたような箱を掲げる。中には細々とした物が収められているのか。小さな動きにも反応して音を立てた。
「はて？　ちょっと待ってください」
　睡蓮が品定めをするような目付きになった。箱に顔を近づけて、瞬時に上体が仰け反った。
「これ、うちのお父さんのおもちゃ箱じゃないですかっ！」
　半ば奪い取った睡蓮は蓋の接合面に指を立てる。頬を小刻みに震わせて、おりゃ、の掛け声で一気に引き剥がした。露わになった中身に瞳を潤ませる。
「これなんか最高に懐かしいですぅ」
　取り上げたのは黄金色の角型ライターであった。周りの食い付きの悪さに睡蓮は人差し指を立てて横に振る。
「ただのライターではありませんよ。よく見ていてくださいねー」
　全体を弄り回して一体のロボットに仕上げた。それを高々と見せつけて、あれ、と小首を傾げる。周囲の反応は薄かった。
「あれは八神か」
　神無は一台の自転車を見つめた。前カゴには物が詰まっている。
　端正な顔を歪めて八神修は自転車で砂浜を走行した。前輪の動きが酷く不安定で左右に激しく揺れる。
「やはり力尽きたか」
　解説の通り、修は自転車と共に横倒しとなった。零れた物を前カゴに入れ直し、自転車を押しながら近づいてきた。
「望月、手助けしてくれないのか」
「なんだ、手助けして欲しかったのか」
　冷静に返された修は口の端に笑みを浮かべる。
「さあ、それはどうかな」
「どうでもいいが、園芸でもやるのか」
「鉢植えは分析の道具として使う。袋の中身は肥料の類いではない。敵を想定して用意したシリカゲルと石灰乾燥剤だ」
　修は自転車の後輪にある両足スタンドを立てた。その場を離れて対象と向き合う。
「これが問題のスライムか。俺の話が理解できるなら暫く止まってくれないか」
「意志の疎通は無理だと思うぞ。散々、試したからな」
　神無は小月を見ながら言った。
「それと動きは極端に遅い。他を試すか」
　修は自転車に戻って鉢植えを手にした。振り子のように何度か振って前方に投げる。緩い弧を描いて標的に当たった。鉢植えは瞬時に溶かされて一輪の水中花となった。
「生物には無害なのか。しかし、国道に出られると面倒だ……やはり袋で対抗するしかないか。望月、袋を投げ入れるから手を貸してくれ」
「なんだ、今度は手を貸して欲しいのか」
「投げ入れる為には妥協も必要だ」
「そんなことはないだろう。投げずに袋をスライムの中に突っ込めばいい」
　修は頭がもげる勢いで振った。
「バ、バカをいうな。あのような不潔な物の中に手を入れられるか」
「あー、はいはい」
　投げやりな返事で神無は引き受けた。袋の一端を持って修の合図で立て続けに放った。
「どういうことだ。あのスライムの構成成分は、水ではないのか」

　茶色の髪を振り乱して横嶋下心がひた走る。
「その程度の努力でスライム君と仲良くなれると思っているのですか！」
　修が呼び止める間もなく、下心は跳んだ。大きなクッションに抱き着くかのようだった。
「バカは溶けないのか」
　神無の声が耳に入ったのか。下心はもがいて立ち上がった。ずり下がるズボンは両手で掴んだ。
「君、それは違うよ。俺は、ただエロいだけさ」
「そうか、ただのヘンタイか」
「理解を深めたいのなら、俺と一緒に新たな世界へ踏み出してみないか？」
　半裸の状態でズボンの両端を握り、下心は白い歯を見せて笑った。どこからともなく走ってきた月詠が夢中でシャッターを切る。
「愛らしい君よ。この俺の身体が気に入ったのかい」
　下心は陶酔感を露わにした声で身をくねらせる。怪しげな撮影会の終わりは見えない。

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