灼熱！　激辛！　真夏の我慢大会！｜リアクション

灼熱！　激辛！　真夏の我慢大会！

　一方、羽生は既に限界を迎えていた。
「………………！！！！！！」
　白眼を剥いたまま、30秒ほど硬直している。うどんの辛さと暑さが口の上で爆ぜた。心が折れかける。ていうか熔ける。まるで溶岩だ。
　あっという間に全身汗みずく。着ているＴシャツは濡れて体に張り付く。Ｔシャツとショートパンツの下には水着（レインボー柄のビキニ）を着ているが、それがＴシャツから濡れ透け状態だ。
「ええい、気持ち悪い！」
　あまりの暑さに汗まみれのＴシャツは脱衣！
「こうなったら、奥の手……」
　羽生、禁断の手段に踏み切った。
　意識朦朧の中、脳裏に今までプレイしてきた乙女ゲーの攻略対象なイケメンたちが羽生を応援してきたではないか！
「お前なら出来るだろ？」（※妄想ボイス）
「優勝するって言ってたじゃん！」（※妄想ボイス）
「駄犬が。俺を失望させるなよ？」（※妄想ボイス）
「負けないでください！」（※妄想ボイス）
「うひひひひひひひ…………待ってて、私、この試練に打ち勝って見せるからっ！」
　羽生、脳内妄想モードという名のゾーンに突入！
「食うが！　乙女の！　ド根性！」
　脳内妄想の力を借りて勇気百倍、怖いものなし！
　さて、巻き返せるか……！
「ストーップ！　ドクターストップです！」
　おっと、ここで救護班が羽生をうどんから遠ざけた！
　妄想と現実の区別がつかない危険な状態と判断され、ドクターストップが掛かってしまった！
「まだ、まだ食べられる！　ああ！　みんな、見捨てないで！！」
「駄目だ、こちらの声が届いていない。これは相当危険な状況だ……。すぐに処置を！！」
　焦る救護スタッフ！　担架で運ばれる羽生は、乙女ゲー主人公のイケメンたちの名前を連呼しながら、医務室へ運ばれてゆくのであった。

　そして、いつの間にか八神も敗者ルームに移動してきた。
「もう充分味わったし、あとは涼しい場所でやるべきことをやろう」
　羽生の騒動で目立たなかったが、八神もまた自身の意中の女の子の名前を連呼して自分を奮い立たせていたのだ。
　八神はノートに、今日の成果をレポートとして書き記しだした。
「ゴーグルは湯気で視界が曇るので邪魔だったな。冷ましたら食べやすかったけど、うどんのかさが増してお腹にたまったのも誤算だったかな。それと、やはりヨーグルトを持ちこんでおいて正解だった。カプサイシンは油溶性なんだ。ヨーグルトの脂肪分に溶けて、辛みが中和される効果があるんだ」
　八神レポートを、他の敗者も興味深げに覗き込み始める。
「実験的だったが、食べながら別の事を考えて感覚や思考を分散させる試みは面白かった。確かに紛れることはまぎれるけど、今回のような殺人的な激辛にはあまり意味がなさそうだな」
　八神はプラセボ効果の方がまだマシだったか、と苦笑していた。
「さて、残り時間は20分だけど、参考書のチャプターひとつはこなせるな」
　周囲はぎょっと目を見開いて驚くが、八神はそれこそ首を傾げてしまう。
「俺は受験生だぞ？　当然の嗜みだが。そうだ、残り時間、みんなで勉強会をしよう。分からないところは俺が教えるぞ。参考書なら、ここに」
　テーブルの上にどさっと積まれた参考書の山を見て、敗者は極楽の中にバビロンの塔を見たような気持ちに襲われたのだった。