灼熱！　激辛！　真夏の我慢大会！｜リアクション

灼熱！　激辛！　真夏の我慢大会！

　気温37度を記録する寝子島で、今まさに己の限界に挑む戦いが開幕しようとしていた。
　町長の中沢リッカルドの鶴の声で、急遽、夏にピッタリのイベントが催される運びとなった『第一回チキチキねこじま真夏の我慢大会』だが、実際、運営スタッフはたいして参加者は来ないだろうとタカをくくっていた。
　だが蓋を開けてみれば、16人の命知らずたちが参戦したというからスタッフ一同がひっくり返ったのは言うまでもない。
　場所は寝子ヶ浜海浜公園の特設会場。そこに集いし16名は、町長リッカルドの声援を受けた後、決戦までの準備に取り掛かった。

　大江戸マンモスは不敵な笑みを浮かべていた。
「このイベント、私への挑戦状と受け取ったですよ！」
　小柄な体がコンプレックスの彼女は、大食いイベントは自分の身体を大きくするための試練だと認識しているようだ。
「こんなイベント、私がサックリと優勝して、大観衆の称賛を一身に浴びてやるのです！」
　壮大な野望を抱きながら、大江戸は決戦の時を待ち侘びていた。

　一方、鴻上優梨乃は参加証を手渡された瞬間、顔が引きつってしまった。
「……え！？　出場者枠！？　聞いてないわよ！？　イベントのお手伝いって聞いてて、準備とかじゃ！？　無理無理無理！　って、うそ！？　と、取り消しはできないの！？」
　鴻上は頭を抱えてしまった。
　彼女は最初、イベントスタッフとして此処へやってきたはずだった。だが、何かの手違いで選手登録されてしまったようだ。
　少し前までは「こんなに暑い日に外で我慢大会だなんてリッカルドさんも凄いこと考えるのねぇ」と半ば呆れながら会場設営を手伝っていたのいうのに。
　それに、鴻上にとって、一番の問題は……。
「私、激辛料理なんて無理よ～～！！！」
　そう、彼女は激辛耐性が皆無なのだ！

　サキリ・デイジーカッターも、このイベント参加に困惑するひとりだ。
　この会場に来る前、彼は従姉にいきなり参加してこいと言われてしまったのだ。
「参ったな。いくらイベントに賑やかし要員として参加する事になったとはいえ、気乗りしないなあ……」
　むしろ甘いものだったら大歓迎だったのだけど、とイベント趣旨を確認して大きな溜息を吐いた。
「とはいえ、命の恩人でもある従姉のあの人の言う事は僕にとって絶対だ。しっかりこなさないと」
　だが、恐らく顔見知りも多く参加しているであろう、このイベントに着の身着のまま参加するのは気後れするサキリ。
「こういうイベントは、インパクトが重要だ。魅せプレイって言葉もあるし……」
　サキリは抱えている紙袋の中身を見てニヤリと口角を吊り上げた。

　桜庭円は飲むヨーグルトを飲み胃袋を防御することからスタート。
　そして他の参加者よりも一足早く席に着くと、ぶつぶつと小声でマインドセットを行う。
「ボクはこの牛乳がカプサイシンを止めてくれると信じている。医療チームが、いかに死の淵にいようと復活させてくれる事を信じている。如何に高いスコヴィル値であろうとも、突き進んで任務を成すことを信じている。そして彼等が手ごわい事を信じている」
　まるで仲間に秒速490メートルの3.57マグナム弾を撃ち込まれるオペレーターの如き心情で大会に臨む桜庭であった。

　志波武道は激辛大好きボーイだ。イベントを見学しようと、軽く食事を済ませてから会場を野次馬とともに遠巻きに眺めている。
「あー、凄いなこの暑さのなかで……。でも医療班がいるし、体調関連はスタッフ万全なら大丈夫かな？」
　すると、スタッフが志波に駆け寄ってきた。
「志波さんですか？　探しましたよ！　どうぞ、こちらへ！」
「はい？」
　志波は首を傾げながら、言われるがままスタッフの後を追う事に。
　すると、いきなり手渡されたのはイベント参加証とゼッケンだ。
「ちょ！？　俺はちょっと様子を見に来ただけなんですってぇ！！」
「え？　お友達と一緒に参加と伺ってますが？」
　スタッフが不思議そうに、“お友達”の方へ視線を向けた。その先にいた人物は……。

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