職業体験に潜む罠｜リアクション

職業体験に潜む罠

「大胆な怪盗もいたものだね」

　パトロール先で映像ジャックに遭った河島澪は、どよめきが起こる街中で目立つ行動をする人物を二人見かけた。
　それらは黒いローブのような格好で、役者が会場内を移動する時などに稀に羽織っている物と似ている。
　本当にショーであれば、これからの混乱を考えて先に移動を終わらせているはずだ。
　映像に足を止めなかったということは、少なくとも何らかの形で映像に関わっている者。そして今のタイミングで移動するのが都合がいいということは――？
　しかもそれが、白を主張した映像と真逆の色で身を包んでいるならば、なおさら疑念がわく。
　澪は冷静に、通信機を手にとった。

「こちら河島。ただいま犯行声明のような映像を確認しました。予告状の情報は？」
『こちら本部。相談が上がったのは、アクセサリーショップ、美容院、厩舎の三ヶ所。どれも悪戯で処理されており、詳細は不明』
「了解。美容院付近で怪しい人物を確認。追跡します」

　思ったとおり、この付近に予告状が出されている。
　このときばかりは、自分の視力の良さに感謝し、澪は怪しい人物の追跡を開始した。

　病院内で電子カルテの入力をしていた八神修は、モニターに映った状況について上長にあたるスタッフへ確認を行っていた。
　イベントにしろ何にしろ、ここに待機で怪我人に備えるべきか、救急隊の協力へ行くべきか。他にも、体験生だからこその役割があるかもしれない。
　可能性は数あれど、ここで働いている身としては、勝手な行動で飛び出すわけにもいかず、あおいが巻き込まれてやしないかと少しだけ心配だった。

「うーん、凶悪な強盗犯って感じじゃなかったし、まだ怪我人の連絡も来てないけれど……」

　この場所は体験施設だが、園内の医務室も隣接されている。
　そちらへ連絡が無いということは、やはりイベントの一種なのだろう。かといって、こういう状況に本物が混ざる可能性もゼロではない。
　解決までの協力を、この医療機関の人員として行うにはどうすればいいだろう。
　窓の外からは、動揺の声が響いてくる。イベントと思い盛り上がる人、本当かもしれないと不安がる人で道は混み合っていて、このままでは噂に噂が呼んで大混乱になってしまいかねない。

「お店のスタッフをしていると、なかなか医務室にも来れないし……八神くんには訪問医を担当してもらおうかな」
「訪問医……なるほど。そこまでは考えが至りませんでした。では、応急処置の道具を少し多めに持って、お店をまわってきます」

　怪我をしたり具合が悪くなって、手近な店に助けを求める人もいるだろう。そういったお客さんの対応に困るだけならば、医務室へも連絡があるかもしれない。
　だが、弱ったお客さんが来てしまったら自身が辛くても申告し辛いスタッフもいるかもしれない。修には、そんなスタッフのケアが任された。外傷だけで無い分、判断は難しい。
　重要なことを任されたと、修は気を引き締めて地図を片手にニャゾニアンモールを巡ることにした。