職業体験に潜む罠｜リアクション

職業体験に潜む罠

　署内に、けたたましい放送が流れる。
　新と結華が何事かと身構えていた時、先に配属されていた森篠琳子が部屋に駆け込んできた。

「私は、本日体験生として配属されている森篠です。緊急事態を報告に来ました」
「同じく体験生の岡瀬です」
「お、同じく体験生の玖珂っす」
「支給品の説明などは随時行います。証拠品の整理をしていて見つけたこの事件、ぜひ協力を――」

　監視カメラの映像を映していたはずのモニターに、映像の乱れが走る。
　ホワイトアウトしてしまったかと思えば、徐々に三人のシルエットが映し出された。逆光のようで、衣服や顔は良く見えないが、署内に流れる映像としては、不審な青年たちと思わせるには十分だった。

「随分、本格的なんすね」
「怪盗団……こんな事件、予定になかったと聞いてるわ」
「へー…………はぁっ!?」

　琳子が見つけた事件というのも、悪戯として処理されていた怪盗団からの三通の予告状の情報だ。
　まさに体験生のためのイベントのようなのに、上官は予定されていたイベントではないと困惑気味に答えた。
　万に一つ、本物という可能性も捨てきれず、捜査協力をしてくれる人物を探すため、新人が待機中と聞いてここへ来たらしい。

「と、とにかく一旦映像を見ましょう。何か情報が掴めるかもしれませんし」

　ジャックされたのは、署内だけではない。
　お店のパソコンも、街頭のテレビも、モニターというモニター全てに同じ映像が流れていた。
　それは一般市民として参加している人々はもちろん、先にパトロールに出ていた志波武道と虚栄心も同じ物を見ていた。
　――真っ白な部屋で、怪盗団と名乗る三人が宣戦布告をしている映像。
　すでに予告状は出しており、闇に紛れて犯行を行わない宣言。さらにはこんな映像まで流すほど自信があるのか、目立ちたがり屋なのだろうか？

「何だあれ？　虚栄さんは、何か聞いてる？」
「いえ、私は何も……」

　こんな面白そうなことが事前に聞けていたなら、対策本部に配属希望をだして寝返るという楽しそうなことができたかもしれない。と、心は内心で舌打ちしながら不安そうな顔を見せる。
　いや、この生真面目なパトロールさえ別行動で切り抜けることができれば、まだチャンスは残っているかもしれない。
　国家権力を用いて横領な態度を通すという体験ができればいいのだ、真面目にやるつもりもないのだから配属先に大きな理想もない。

「この犯人たちを捕まえるのが、私たちの仕事になるかしら？」
「街の安全を守るのが、俺たちの仕事だからね！　……声は変声機のようだし、映像もシルエットだけじゃ、よくわからないな……リアルタイムなのか、録画なのかによって、居場所も変わってくるし」

　凝ったイベントだと思いつつ、犯人確保のための情報を探すべく、真剣に映像を見る武道を、心底鬱陶しそうに心は見つめた。
　一緒に説明を受けたのが、武道でなければ単独行動だって簡単にできたかもしれないのに。
　集中している間に、そっと抜け出してやろうか。

「虚栄さん、何か気づいたことはないかな？」
「え？　ええっと……混乱が予想されるから、ここは手分けをしてパトロールか誘導をしたほうが」

　思ったより早くバレ、慌てて笑みを作った心だが、その引きつったような笑みが不安になりながらも市民を心配しているように見えたらしい。武道は一緒に捜査を頑張ろうと、眩しい笑顔を見せる。
　それが、心に嫌がられているとは、微塵も気づかないままに。