逆襲の時｜リアクション

逆襲の時

　葉利沢倫理子は両手首を拘束された状態で横向きに倒れていた。その姿で強い瞬きを繰り返し、小さく舌打ちをした。凶悪な光を湛えた眼は別人格、Maliceのものであった。襲撃の際、悪意を感じてろっこん『Malice in the real』が発動していたのだ。
　――この私をこんな目に遭わせるなんて、度胸だけは認めるわ。
　でも、絶対に許さない。せいぜい喉笛を噛み切られないように気を付けることね。
　ゆっくりと起き上がる。乱れた髪は一振りで直した。
　冷徹と化した目で周囲を見ていく。その間、耳は囁く声の情報を集める。
　――ここは寝子島にある地下駐車場と。私達がモルモットね。ろっこんを悪用するつもりかしら。
　ボスがくるのね。護衛の中にはもれいびもいるらしいわ。黒服を全員、相手にしている時間はなさそうね。
　黒服に注目する。赤い腕章を付けた者がいた。用心を怠らず、鋭い視線で警戒に当たる。私語の多い者には眼光で威圧する。時に動いて力で制した。
　――あの腕章達が要のようね。体型や動き方に特徴があるわ。戦闘時の参考になるわね。
　同じように縛られていた人々にそれとなく小声で伝える。儚い声が感謝の言葉を返してきた。
　――あとは自力で何とかすることね。
　薄笑いで対応した。Maliceは両手首のロープに視線を落とす。適当に動かして縛り具合を確かめる。
　蔑むような笑みで両方の手の開閉を始めた。筋肉の収縮を故意に起こし、ロープを緩めていく。
　――これくらいで十分よね。
　試しに片方の五指を寄せた。全体を細くした状態で引き抜くように引っ張る。手の甲の半ばまで抜けて元に戻した。
　――いつでも外せるわ。
　口角を上げた。左右の犬歯が覗く。近くにいた黒服の喉を静かに見据えた。