逆襲の時｜リアクション

逆襲の時

　タイラ・トラントゥールは平手打ちで切れた唇を少し舐めた。
　――血は止まったようだな。
　露草色の目を一方に向ける。
　――竜世は演技が下手だな。連中は騙されたみたいだけど。
　このままなら逃げ切れると思うが、正義感の強いアイツのことだ。そうはならないのだろうな。
「おい、そこの金髪」
「ボクのことか」
「そうだ、お前のろっこんはどんなものだ？」
　暇を持て余した様子で黒服が聞いてきた。
「それはなんだ？」
「とぼけるな。もれいびだけが使える特殊能力のことだ。力を倍加させたり、猛獣に変化することもできる」
「聞いても意味がわからない。子供騙しにもならないし、ボクには全く関係のない話だ」
　うんざりした態度で口を噤んだ。
「チッ、ただのガキかよ」
　悪態を吐くとそっぽを向いた。
　タイラは周囲に目をやる。
　――あるかどうかもわからない、ろっこんのせいで皆をこんな目に遭わせているのか。許せない連中だ。
　女の黒服がスマートフォンを操作していた。ケースは色鮮やかな花柄であった。タイラはじっと見詰めた。集中したあと、そっと瞼を閉じる。
　条件を満たしたことでろっこんが発動した。『Sentiment partagé de』は無機物のスマートフォンと感覚を共有した。一気に情報が流れ込んできた。
　――な、なんだと！？　また、これか。まさか、これが奴等の言っていたろっこんなのか？
　いや、考えているヒマはない。情報を伝えることが先だ。四十分でボスがここにやってくる。
　タイラは目立たないように心掛け、行動に移した。