逆襲の時｜リアクション

逆襲の時

　服部剛は下唇を噛んだ。歯が食い込んで一筋の血が流れる。鴻上彰尋は黒服にいいように蹴られていた。
　――鴻上、苦しい思いをさせてすまん。この時間、絶対に無駄にはせんからな。
「……もう、あかん。誰も助からん」
　泣き言を口にした剛は大きな溜息を吐いた。結ばれた両手首を使って背中のフードを掴んで頭に被せる。少し頭を下げた姿で警戒心の薄い黒服を懸命に探す。
　――見つけたで。
　生欠伸をした黒服の目を見た。こちらに気付く様子はなかった。
　――まだや。まだ気付くんやないで。
　フードの先が微かに震える。組み合わせた指に力が入った。先端が白くなる。
　――十秒や！
　胸中で叫んだ。
　瞬間、剛のろっこん『ジョーカーフェイス』が発動した。黒服の心が流れ込む。
　――ボスには取り巻きがおるんか。もれいびも引き連れとるやと。ぐずぐずしとったらあかんで。
　驚きで顔が上がった。被っていたフードは元の位置に押しやられた。
　目に付いた霧谷朧に囁きで情報を共有した。両足首のロープの切断を試みていた志波武道には人を介して伝える。
「……剛くん、サンキュー……こっちのロープもあと少しで切れそうだＹＯ……」
「……緊張感ゼロやな」
　剛は笑みを零した。
　――俺も笑ってる場合とちゃうわ。まあ、あれやな。志波から勇気を貰ったで。
　今度は不敵に笑うのだった。