逆襲の時｜リアクション

逆襲の時

　コンクリートの床に無造作に投げ出された格好で新田樹が横になっていた。活発な印象を与える七分丈のパンツルック。ロープで後ろ手に縛られていた。
「……ここは、どこ、なの？」
　軽く頭を振りながら上体を起こす。真っ先に黒いスーツの面々が目に入った。ああ、と納得の声が漏れた。
「いや～、捕まっちゃったね」
「ようやく目覚めたか」
　樹は声の方に目を向ける。腹立たしげな顔をした新田亮がいた。制服姿でロープに縛られ、両腕の自由を奪われていた。
「兄さんもやられちゃったんだね」
「不意打ちだ。もう少し周囲に用心していれば」
　怒りで頭が震える。鼻筋には皺が寄り、歯軋りが聞こえてきた。
　樹は真逆で笑みを浮かべる。置かれた状況を楽しんでいるように見えた。
「日常も悪くないんだけど、こういうスリルも大好き」
「呑気なことを言っていられる状況じゃない」
　亮は得られた情報を掻い摘んで樹に教えた。
「なるほどね。これで兄さんとゲームが始められるよ」
「遊びじゃないぞ。皆の命が掛かっているんだ」
　亮は低い声で言った。不謹慎な樹の発言に対して少し怒りを滲ませていた。
「……兄さん、私だってピンチなのはわかるよ。どうせ乗り越えるなら、楽しんだ方が得よね」
　顔を寄せて、にっこりと笑う。
　亮は呆れた表情で軽く頭を左右に振った。
「それで皆が助かるのなら」
「そうこなくっちゃ。ゲームは単純で、ボスがくる前にどちらが多くの敵を倒せるか勝負だよ」
「本当に単純だが、皆の助けにはなるか」
「負けた方が夕食を奢ること。それでいいよね？」
　樹は亮にそれとなく迫る。
「わかったが、少しハンデが欲しい。樹のろっこんは強力だからな。例えば……投げる武器として石を用意してくれないか」
「ま、やってはみるけど」
　樹は真顔となった。意識を集中させてろっこんの『リトルガーデン』を発動させた。瞬間移動で石は運ばれて来なかった。
「どうしたんだ？」
「……五十メートル以内に石はないよ。この地下駐車場は街中にあって、壁は見た目よりも分厚いのかもね」
「仕方ない。あとは皆の用意が整ってから樹にロープを瞬間移動させて貰うか」
「そうだね。楽しみ」
　樹は狡猾な笑みを浮かべた。