逆襲の時｜リアクション

逆襲の時

　朝鳥さゆるは軽く呻いた。僅かに瞼を開ける。コンクリートの床に押し付けられた形の頬を引き剥がす。力なく転がると仰向けになった。
　――全身に鈍い痛みが残っている。腕は動かせないわ。縛られているみたいね。
　顔を上げた。胸の谷間が薄っすらと見える。扇情的なＶネックのチュニックを着ていた。納得した表情でコツンと後頭部を床に打ち付ける。
　――一夜限りの相手を探していた時に、黒いスーツの男に襲われて、このザマね。
　薄笑いを浮かべた。運命に流されるかのように瞼を閉じる。
　――ここで命を落としてもいい。
　表情が厳しくなる。瞼が微かに震えた。
　――私は死ねない……片篠藍人と再会するまでは。
　さゆるはゆっくりと動き出す。合わせて色っぽい声を漏らした。胸の谷間が見え易いように横向きとなった。
　その姿勢で男の黒服を眺める。欲望が顔に表れている人物がいた。さゆるは軽く胸を揺すって見せた。
　黒服は下卑た嗤いで近づいてきた。
「俺にして貰いたいのかな」
「素敵な提案ね」
　さゆるは下唇を舐る。黒服は胸の谷間に手を入れた。しっかりと掴み、回すように手を動かした。
「もっと人目のないところで……」
　懇願するような表情で囁く。黒服は手を引き抜いた。仲間の方に顔を向ける。
「この女が持ってる情報を聞き出したいんで、連れていってもいいですかね」
「程々にしろよ」
　赤い腕章を付けた一人が呆れたような声で言った。
「重々、承知してますんで」
　黒服は何度も頭を下げた。直後に好色な笑みを浮かべて、さゆるを強引に立たせる。
「良い声を聞かせろよ」
　耳元の声にさゆるは蕩けるような笑みを見せた。
　その遣り取りを葉利沢倫理子が眺めていた。ろっこんで別人格に入れ代わったMaliceは微かな笑い声を漏らす。
「……あの時と同じで自分に正直なのね。怖い、怖い」
　最後は茶化すような言葉で二人を見送った。