【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　葉利沢倫理子は海の家の更衣室に入ると服を脱ぎ捨てた。自身のビキニ姿を見て口角を釣り上げる。両手で胸を掴み、回すようにして弄った。
「感度は上々ね」
　ろっこんで入れ代わった別人格、Maliceは邪悪な笑みを浮かべた。

　堂々とした足取りで砂浜を歩く。満ち溢れる自信が顔に表れる。軽く髪を掻き上げるだけで男性の目を釘付けにした。
　何かを期待するような視線の全てを無視した。孤高の女王然とした気品を纏い、海へと向かう。恐れ多いと波まで引いた。強引に足を踏み入れて早足となる。
「珍客はいないから、自由に泳げるわ」
　鋭い槍となって飛び込んだ。
　クロールで泳ぐ。両手が海面を切り裂いた。力強い脚で推進力を得ると勢いに乗った。
　誰もいない海面に仰向けとなった。両腕を開いた。
「これが自由ね」
　凄味のある笑みで言った。
「自由、本当に素晴らしいわ！」
　けたたましい笑い声を上げた。狂おしい程の喜びを全身に漲らせて泳ぎ始める。細身ながらも獰猛な鮫を思わせた。
　ゆったりとした足取りで砂浜に戻ってきた。海の生物が陸に上がった時のように動くは鈍い。軽く頭を振りながら人の少ないところを選んで歩いた。
　行き着いたデッキチェアの側にはパラソルが立てられていた。同じような物が幾つも並ぶ。看板には無料と書いてあった。
「気が利くわね」
　適当なデッキチェアに背を預ける。火照った身体を労わるような風が吹いてきた。
　限界の末にMaliceは瞼を閉じた。邪悪な面は隠れて幸薄い少女の顔となった。