【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　三折部朝衣は瞬時に目覚めた。布団から跳ね起きてカーテンを開け放つ。仄かに明るい空を見て笑みが零れた。
「時間が惜しいわ」
　急いで出掛ける用意を始めた。
　未だ眠りの中にいた旧市街。その一軒家から朝衣がそろりと出てきた。目立たない黒いジャージを着ていた。
　サーフボードを抱えて早足で歩く。徐々に海の匂いが強くなる。力強さが増して、ついには走り出した。

　寝子ヶ浜海岸に到着した。海の家が建ち並ぶ。特設ステージも完成していた。利用する人だけがいなかった。
「あたしが一番！」
　サーフボードを砂浜に突き立てた。着ていたジャージを脱いでウェットスーツ姿となった。軽いストレッチのあと、相棒を抱える。

「朝一のサーフィンを楽しむわよ」
　朝衣は駆け出した。押し寄せる波を蹴散らし、サーフボードに飛び乗った。腹這いとなってパドリングを開始する。横一線の波をノーズが切り裂く。
　眼前に大きな波が迫ってきた。上部が広範囲に崩れ始める。
「大きさはいいけど、ダンパーはお断りよ」
　朝衣は重心を前にしてノーズを下げた。ドルフィンスルーで海中に潜り、波を越えた辺りで一気に浮上した。
　次の波を目にした。
「これを待っていたのよ！」
　サーフボードが波を捉えた。素早く立ち上がって横に滑るように進んでいく。ボトムターンを決めて波の上部に戻り、一つの波を存分に味わった。
「最高ね」
　最後は棒立ちの状態で軽く流し、自ら海に飛び込んだ。再び、サーフボードに腹這いとなって次の波に挑んでいく。
　波に乗った状態で歓喜の声を上げた。何度も波飛沫に塗れた。ワイプアウトさえも楽しんだ。
　空が薄い水色に変わる。朝衣はサーフボードを抱えた姿で砂浜に戻ってきた。
「十分に波を楽しめたわ」
　手早く帰り支度を始める。ジャージ姿となって斜面を上がった。湿った髪を軽く掻き上げて来た道を引き返す。
　一度、海に目を向ける。
「仮眠のあと、泳ぎにくるわね」
　爽快な笑みで帰っていった。

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