三不管ノスタルジア｜リアクション

三不管ノスタルジア

３.死の気配は傍らに

　灰褐色にくすんだ木製の扉。
　トタンや粗製のコンクリートを流し込んだだけのような建築物が多いなか、丸太小屋とも納屋とも言えるような空き家の前に７名の寝子高生がいた。
　先ほど合流したばかりのブリジット、円、刀。それに加えて、スケッチブックを抱いた浅山小淋、偉丈夫である尾鎌蛇那伊、凛とした雰囲気の獅子尾優華、興味深そうに周囲を観察している逆巻天野である。

　「ずいぶんと面白いことになったね」
　と、素っ気無く天野は言う。
　「面白いかは置いといて……何かいい案があるかしら」
　優華は天野の言葉にツッコミを入れる。
　「先ほど、刀と円には言ったけれど、状況把握するにも脱出するにも情報収集は必須ね」
　腕組みをしながらブリジットは断言する。
　「テオのことも気になるんだ。いつもは対処なのに今回は脱出しろ、なんてしっくり来ない」
　円は疑問を提示する。
　『この場所が創られた原因を解明したいですね』
　小淋がスケッチブックで筆談をする。
　「分担して情報収集ってところかな。護衛役も必要だけど拠点も必要だね」
　と、天野は空き家を指差す。
　「そうだな。逆巻頼まれてくれるか」
　刀は天野の意見に頷く。
　「そのつもりだよ」
　天野はどこかシニカルに笑う。
　「それじゃ、私は調査ついでに換金してくるわね。ここじゃカードも日本の通貨も通じそうにないから。円、蛇那伊、一緒にお願いね」
　護衛役として円と蛇那伊を指名してブリジットは行動を開始した。
　「もう１班はこうなるわね」
　優華は刀と小淋に眼差しを向ける。
　『逆巻さんは１人で大丈夫ですか？』
　小淋は少しだけ心配そうに天野を見やる。
　「大丈夫だよ。情報収集の結果楽しみにしてる」
　と、天野は調査班を見送った。

　木製の扉には申し訳程度の南京錠が備え付けられていた。錆が浮き、かろうじて繋がっているその錠は天野が少し引っ張るだけで容易く引きちぎられ、錠としての役割を終えてしまう。
　軋むような音を立てながら扉は観音開きにされる。
　埃とかび臭さが天野の鼻を刺激する。
　「こういうところは勝手に誰かが使ってそうなもんなんだけどね」
　と、空き家の中を携帯のバックライトで確認しながら天野は独りごちる。
　屋内は路地よりも暗く、視界は満足に得られるとは言いがたい。
　足元に注意しながら天野は歩を進める。
　「なるほどね。道理で誰も寄り付かないわけだ」
　小屋の中央付近で天野は足を止め、床と天井を交互に見る。近くには倒れたままの椅子。

　天井からロープがぶら下がっている。途中から腐って千切れている。

　木製の床には変色した痕。

　そして輪の形を残したまま千切れたロープの断片。

　その周囲に散らばるたくさんの白い骨。

　「皆が来る前に片付けないとね」
　天野は手を合わせ簡易ながらも念仏を唱える。

　「さて」
　一通りの処理……少なくとも他の仲間にはこの場所に死体があったことを気取られない程度の偽装を行った後、天野はこの小屋の構造を確認する。
　「入り口は１つ。窓は無し。守りやすくていいね」
　鞄から小型の着色スプレーを取り出し、入り口付近に時間をかけて魔方陣を１つ描く。彼のろっこん『裏切りテリトリー』の下準備である。
　続けて、部屋の中心に一つ。
　念のため、入り口以外の三方の壁方向にも魔方陣を描く。小屋の中に散りばめられた大小様々なカラフルな魔方陣。
　その様子は知らない人から見れば、魔女のサバトか新興宗教のトレードマークか、もしくは現代アートの体現のような光景であった。

　「……何事もないのが一番いいんだけどね」
　部屋の片隅に隠すように埋葬した先の住人に思いを馳せながら、天野は調査班の帰りを待つのだった。