夜の女帝号、洋上の宴｜リアクション

夜の女帝号、洋上の宴

「この先は私が説明しよう」
　仄が口を開いた。
「ショーがはじまった。事件は、クライマックスに起こった。だが、そうだな……その話の前に、私たちの作戦について、説明しておいたほうがいいかもしれないな」
　お願い、とリンコが言う。
「では――すこし時を戻そう。約１週間前、私も例に漏れず、リンコからの誘いを受けた。そのあと私が何を準備したか、リンコは知っているよな」
「ええ。あなたは、私にこう依頼したわね。腕のいいレプリカ作成師２人に２つずつ、計４個の＜巨大な月の指輪＞レプリカを作ってくれって。その要望には応えたわ。貴女の名前はもちろん出していないし、受け取りも別の人に依頼して、監視カメラのないコインロッカーを通した。そうよね」
「ああ。たしかに４つのレプリカは受け取った。じゃあ、そのあとから話そう。私には仲間がいた。もっともシーノに対する考えはそれぞれでね、作戦には協力してくれたけれど、ここには来なかった仲間もいる。モデル控室の話のとき、もう出てきたね。私たちの仲間は三日月の印をつけることにしていたから、便宜上、チーム三日月とでも呼ぶことにしよう――」

●チーム三日月の作戦「月を盗め」：双葉仄の視点１

　話は、パーティが始まる前に戻る。
　私たちは＜巨大な月の指輪＞を盗む作戦を立てた。
　作戦名は――「月を盗め」。

　まず私がしたことは、ぶあつい胸パットを２重にして胸に入れることだった。
　――いや、胸が小さいことを気にしてではない。
　その偽乳に、４つの指輪のレプリカを隠したのだ。
　私は髪を下ろし、膨らませた胸に似合うような大人っぽいメイクとドレス、それから三日月のタイピンで変装して船に乗り込んだ。

　次にしたことは、船に乗り込んでから隙を見てトイレに行き、そこで偽乳からレプリカを取り出すと、仲間のシグレ・ナイトウォーカーに接触したことだった。
　シグレは髪をオールバックにし、眼鏡を掛けていた。三日月のタイピンがなければ誰だか分からなかった、……というのはお互い様かもしれない。
「こんなところでお会いできて光栄ですね」
　シグレが握手を求めてきた。
「ああ。よろしくな」
　私も手を差し出し――そっとシグレにレプリカのうち３つを渡した。
「やあやあ」
　シグレに手を振りながら歩いてきたのは旅鴉月詠だ。
　シルクハットを大仰に脱いで一礼する。英国貴族男性みたいだった。
「なんだ、ドレスじゃないのかい？」
　シグレがおどけて尋ねる。
「『夜の女帝』に配慮したのだよ。それにドレスじゃ動きづらいし。『芸術家は変わり者』というのは定番だから、許しておくれよ」
「なるほどね」
「そうそう。頼まれていた絵だよ。確かに渡したよ、じゃあね」
　月詠はスケッチブックから一枚をシグレに渡すと去っていった。
　ちらりと見えたそれは、『二本足の猫』の絵のように見えた。

　私はその後、仲間との不要な接触を断った。
　手筈では、そのあとシグレが岩国ソワカにレプリカのうち１つを渡すことになっていた。
　そして、間違いなくそれは行われたのだろう。
　つまり、パーティ開始前の時点で、４つのレプリカは、私の手に１つ、ソワカの手に１つ、シグレの手に２つとなっていたはずだった。

　そして、時は２０時――ジガント・ルア新作ドレスファッションショーの場面となる。
　