薄暗い船内。ゆらゆらと煙る紫煙と熱気。さざめくような、たくさんの話し声と笑い声。
そこは星ヶ丘のヨットハーバーに停泊する一隻の大型クルーザー
≪Inferno≫。
――『裏の噂』が集まる場所。
「もれいび、っていうんですってね」
わざとらしい囁き声だった。
加瀬 礼二の耳に届くか届かないかというほどの。
長い黒髪に深紅のルージュ。際どいスリットの入ったドレスの彼女は、「ルージュの7」とチップを賭けると、礼二の隣で足を組む。
「俺に何か用ですかねぇ」
女はフ、と鼻で嗤う。それがなんだか癪に障った。
「……貴女、最近よく見かけますよねぇ、いつも黒服の男たちと一緒で。名前はたしか……」
「リンコよ。
リンコ・ヘミングウェイ。――ああ、自己紹介はいらないわ。加瀬クンよね」
……気に入らない。人の名前を勝手に調べているなんて。
「で、リンコさん? お話はなんです?」
「別にぃ? ……ただ、こんな話知ってるかな、と思って。7日後に、星ヶ丘マリーナに寄港する豪華客船クルーザー
<夜の女帝(ナイト・エンプレス)号>でパーティがある、って話」
「知っていますよ。世界的なファッションブランド<ジガンテ・ルア>の新作ドレスお披露目パーティでしょう?」
「そうよねぇ、知ってるわよねぇ。モデル? だもんねぇ」
ち、そんなことまで……。礼二は苦さを表に出さないようポーカーフェイスを作る。
「本題に入っていただけますかねぇ」
「ん~、じゃあ、これは知ってるかしら。そのパーティで、とある有名な宝石もお披露目される……って話。――
<巨大な月の指輪>って、あたしたちの世界では呼ばれてるんだけど」
「それは初耳ですよ」
「ウフフ。この話、ここからが面白いんだけれどね、その<巨大な月の指輪>にはある秘密の仕掛けがあって、伝説の宝の島の在り処を指し示す……なんて噂があるのよ」
「伝説の宝の島?」
「そう。大昔に大津波で沈んだという島よ」
「……ばからしい。宇宙から地球を撮影できるこの時代に、伝説の宝の島なんてあるわけないじゃないですか」
「そう、普通は信じないわよね。普通は」
リンコはフフフと笑って見せる。礼二は呆れて言った。
「……貴女たちは、<巨大な月の指輪>を盗むつもりなんですか?」
「ウフフ、声が大きいわよ」
リンコは上目遣いに、そっと口唇に人差し指を当てる。
「ただの仕事よ。そして、この仕事をするのに、最近噂に聞くもれいびさんってどうなのかしら、なんて思っただけ。そのろっこんとやらがホンモノで、もしその使い道を探しているなら、あたしたちの組織で役立てる気はないかしら……なあんてね。でも、こんなの、高校生には無理な話よねぇ? 昼間は真面目な学生さんだったりしちゃうんでしょ? フフフッ」
仲間らしい黒服の男がリンコの傍に寄ってきて、その耳に何事か耳打ちをする。
わかったわ、とリンコは答える。
「ごめんなさい。用事が出来ちゃった。今日のところは失礼するわね。まあ、もし、あたしたちの仕事に興味があったらここに連絡して? 来週のパーティの招待状くらいは用意してあげるから」
リンコは
<SINO(シーノ)>とだけ刻印の入った黒いカードに、深紅のルージュでメールアドレスを書き、礼二に押し付ける。
「それと、アレもあげる」
リンコは立ち去る。意味深な笑みを残して。
――「ルージュの7!」ディーラーが声をあげ、大量のチップが礼二の方へと押しやられた。
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
寝子島に生息している謎の組織<シーノ>の存在が明らかになりました。
彼らと一緒に、ちょっぴり裏っぽいお仕事、してみませんか?
◇組織およびNPC情報
○<SINO(シーノ)>
謎の組織。その全貌はわからないが、
組織に伝わる、伝説の宝の島を探している……らしい。
メンバーは普段は一般人として暮らしていて、お互い顔を知らないこともある……らしい。
どうやら最近「もれいび」がいろいろな能力を持っていることを嗅ぎつけ、
カジノ以外にも昼間の公園や、夜の路地裏など寝子島中のいろいろなところに出没して、
組織に引き入れようと誘っている……らしい。
○リンコ・ヘミングウェイ(NPC)
スタイリッシュな美女で、シーノの連絡係。25歳(自称)。
近ごろ、仲間の黒服と一緒に、仲間になってくれそうな「もれいび」を物色している。
基本、作戦には参加しない。<夜の女帝号>には乗船しないで待っている。
◇<夜の女帝(ナイト・エンプレス)号>でのパーティについて
<夜の女帝号>は、7日後に、星ヶ丘マリーナに寄港する豪華客船クルーザー。
夜7時に出港し、寝子島沖をクルーズして夜11時に帰港予定。
巨大なシャンデリアの麗しい船上の大広間で、夜8時から10時まで、
世界的なファッションブランド「ジガンテ・ルア」の
新作ドレスお披露目パーティが行われる。
(モデルは女性が主だが、男性もエスコート役として若干登場する模様)
パーティでは洒落た飲み物や食事も振舞われる。
パーティに疲れたら甲板に出て夜景や夜風を楽しむことも出来る。
パーティには、主に有名人・資産家・名家の人々が招待されている。
招待状を持っていない人間は、乗船時に屈強な黒服の男たちに阻止されるが、
モデル・給仕などのバイト・資産家などの同行者(恋人/執事など)は乗船可能。
船内では、正装していないと怪しまれるので注意。
◇<巨大な月の指輪>について(シーノが掴んでいる情報)
・<巨大な月の指輪>は古くから伝わる、美しい巨大なムーンストーンの指輪。
ブランド「ジガント・ルア」の名は、「巨大な月」を意味していて、
同じ名前の<巨大な月の指輪>を最近、高額落札したのだとか。
・<巨大な月の指輪>は、トリのウエディングドレスのモデルが身に付けてお披露目される予定。
・<巨大な月の指輪>を身に付ける女性モデル、および、彼女をエスコートする男性モデルは
当日集まったモデルたちの中から選ばれるようだ。
・怪しい動きをしているのが「ジガント・ルア」の私設ガードマンに見つかると、客室に監禁されてしまう。
・<巨大な月の指輪>にはなにか秘密の仕掛けがあるようだが、
その秘密をリンコは仲間に明らかにしていない。
リンコは<巨大な月の指輪>を自分の元に持ってきてくれたら
その秘密を教えると言っている。
最終的には、≪Inferno≫で待つリンコ・ヘミングウェイに、
<巨大な月の指輪>を渡すことがミッションクリアの条件となる。
※シーノの一員として協力してくださる場合は、アクションに<シーノ>と入れてください。
その場合は、何らかのかたちで今回シーノと接触があったことにして作戦に従事してください。
ひとりで作戦を遂行するのは困難ですので、
役割分担をして、自分の役割についてアクションを掛けるのが吉……かもしれません。
大人キャラさんは、実は以前から<シーノ>の一員だったことにしてもよし。
学生キャラさんは、リンコか黒服に声を掛けられたもれいび、ということにしてもよし。
単に豪華客船に乗り合わせた者としてパーティを楽しんでもよし。
当日の衣装なんかも、こだわりがあればアクションにどうぞ!
そのほか、ご自由な思いつきで、
豪華客船クルーザー<夜の女帝(ナイト・エンプレス)号>での一夜を、どうぞお楽しみください。