【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆｜リアクション

【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆

　夜の九夜山にある三夜湖は、曇り空もあって水面に光は無く大きな穴がぽっかり空いているかのよう。
　和ませてくれる鳥さんたちも、ほとんどが巣へと戻っている時間なれば、周囲の静けさが余計に意識される。
　五十嵐尚輝と逸れないよう、寄り添って歩く御巫時子も普段であれば怖さを感じたかもしれないが。
　――　尚輝先生と一緒なら安心して行けますね。
　好きな人が隣りにいる。ただそれだけで心は強くなるものだと実感しながら。
　ゆえに、頼りにしていた灯りが途中で消えてしまっても、時子は意外と落ち着いたままだった。

「何方に向かえば着くんでしょうか？」
「こういう時は、下手に動かない方がいいでしょうね。足元も見えず危ないですし」

　教師らしく、生徒を守るように提灯を持つ手に若干力が籠った気がする尚輝を、そっと見上げた時子の視界にこちらへとやってくるらしい雲が映る。
　見る間にそれは鳥の姿へと形変えて、時子と尚輝の目の前に降り立った。

「……僕は夢でも見ているのでしょうか」
「鳥さんのかたち、可愛いですね」

　呆然と呟く尚輝と対照的に、ほっこり紡ぐ時子。
　なんだか乗って欲しそうですね……、と窺う時子の視線に暫し悩んでいた尚輝だったが。
　研究者は得てして好奇心には勝てないものである（多分）。
　夢なら夢でよいか、と意外とざっくり開き直った尚輝にこっそり安堵しながら、時子は尚輝と共に鳥の背中へとお邪魔する。

「御巫さん、手を離さないで下さいね」
「は、はい」

　雲が次第に空へ昇っていく事に気付いた尚輝から、提灯持ち合う手が触れ合う程の位置になれば、高さよりもその体温にドキドキし出す時子。
　それも視界いっぱいに星たちが広がった光景になれば、感動へと上書きされる。

「綺麗ですね。今日は曇ってて見れないかと思ってたのでこんなに近くで見れて良かったです」

　夜空に見惚れていた視線を、尚輝へと移動させた。
　その横顔も、先程の時子と同じように言葉を失うほどの感動に満たされているのだと分かれば、時子は
　それ以上言葉を続けず二人だけの星の世界を堪能する。
　――　これからも、先生と一緒に居られますように。
　くっきり見える天の川へ、そっと願い事を心の中で囁いた。

　ゆっくり雲が降りて、二人分の足が地上に着地する。
　少し先に竹燈籠の灯りとゴールが照らし出されているのを目にすれば、互いの視線が絡んで微笑み合った。
　まるで手を繋いでいるように、雲に乗った時から提灯の柄の上で重ねられた手たち。
　あともう少し、もう少しこのままでいられればいいのに。
　我儘だと思いつつも、秘めた恋心は無意識に歩くペースを遅くする。

「素敵な星空でしたね。尚輝先生は、何かお願い事したんですか……？」
「あ。し損ねてしまいましたね。まさかあれ程の星空が見れると思っていなかったので……
　見惚れてしまっていました」

　時子さんはお願い事したんですか？　と問われれば、私も同じですとだけ答えた。
　不思議な体験でしたね、と会話を続けながら、二人はゆっくり、ゆっくりとゴールするのだった。