＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●鈴島：緑の回廊、意志ある茨１

　古代の匂いが鼻を突いた。回廊は緑色に塗られた角ばったトンネルのようだった。
　薄暗いので、懐中電灯で照らす。
　天井のひびから木の根が侵食してきていて、前方は茨のようなもので塞がれている。
　行き止まりなのだろうか。そう思ったとき、恵御納夏夜のＮｙａｐｈｏｎｅに着信があった。
「あ、小山内さん、から……」
　送られてきたのは、半身像の断面を拡大してスケッチした遺跡の地図。
「この先……道、続いてるんだな」
　八神修が外側から観察した塔の位置を脳内で重ね合わせて呟く。
「ピラミッド……大極図にも似てるな。中心に零神に関連するものがあると考えるのが妥当だろう。四十九院先生は鍵か、依り代か、或いは……」
「よくわからないけど、道が続いているなら、行こうよ」
　新顔の小学生、水戸健吾がずんずんと茨の方へ進んでいく。すると、
　
　ざわり！

　行く手の茨が、まるで意志を持って行く手を阻むかのように密集して壁になった。
　事情は聞いていたが、実際にこういった異変を目にすると、身体が反射的にのけぞる。
「あぶない！」
　ユチェンがナイフを抜き、楓仕込みのナイフ捌きで健吾に向かって伸びてきた蔦を叩き切る。
　ところが切り落としたその断面からすぐに新たな芽が生えてきて、今度はユチェンの腕に絡みついた！
「っつ！」
「ユチェン！」
　修は軍刀拵えの小刀を抜くと茨の蔦を伐採すると、ユチェンの腕を引いて茨から遠ざける。
　なお追ってくる蔦に向かって、夏夜も鞘にトルコ石の装飾のついたウイグル刀で応戦。
（茨……遺跡の防衛機構か！　切っても生えてくる……）
「手ぇは出させへんよ」
　伏見真はユチェンと健吾を守るように一歩前へ出ると、修や夏夜が戦いやすいよう蔦を懐中電灯で照らした。その瞬間だ、懐中電灯の光に向かってひゅっと茨の蔦の一枝が伸びてきたのだ。
「！」
「いけないっ！」
　夏夜が、ラジオ付き懐中電灯をラジオも電灯も両方付けた状態で投げつけたのと、真が咄嗟に懐中電灯を手放したのはほぼ同時だった。
　茨の蔦は光をむさぼるかのようにふたつの光を蔦の壁の中に飲み込んだ。
　一瞬暗くなった茨の中から、ラジオの音だけが聞こえる。
　ざわざわと蠢く気配と、陽気な音楽のミスマッチさに、一行は薄気味悪さを感じずにはいられなかった。
　真は、一瞬跳ねた心臓を押さえ、状況観察に務める。
「……なんや狭い回廊におるからお日さんが恋しんかね。せやったらもしかして水も？」
　ちょい試してみよか、とペットボトルの蓋を開け、水を撒く。
　ざわわわっ！
　茨の蔦は懐中電灯の時と同じように水に向かって一気に蔦を伸ばしてくる。
「あぶない！」
　ユチェンは咄嗟に真を守り、ナイフを一閃して向かってきた蔦を切り落とす。
　先端を失った蔦は触手のようにぐぐぐ、と蠢いて新たな芽を生み出そうとしたが、修が参考書に火をつけるやその断面を焼き、それを阻んだ。
「組織が焼ければ再生しなくなる。参考書も役に立つのさ」
「参考書……そういう使い方もあるんなあ」
　爽やかに笑う修に、真は感謝八割なあきれ顔で肩を竦めた。

　どうやら、この参考書の一件で、意志ある茨は火は怖いものと学習したらしく、こちらへ無闇に蔦を伸ばすのを控えはじめた。こちらもこちらで学んだことがある。
「光と水には向かってくるけど、火は怖がる様ね」
　最後方で観察していたブリジット・アーチャーが、探偵らしく人差し指を立てそう言った。
　健吾が健気にみんなを見上げる。
「僕、水に変身できる力にあるから、きっと役に立てる思う」
「わかった。頼りにしてる。ほかにもそれぞれ策がありそうね。だとすると――」
　ブリジットの言葉に、一行は目配せし合う。
　自分たちのろっこんと知恵で、切り抜ける手は、ある！