＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●鈴島：分かれ道

「青赤緑の三つ？　この配色は――」
　ブリジット・アーチャーの言葉を、屋敷野梢が引き取る。
「混ぜれば、光なら白に、色なら黒になりますね」
　坂内梨香も入り口から三方向を覗いてみた。
　このあたりは植物の浸食が浅いエリアであった。植物をかき分けた跡などあれば、どの道を行ったかわかるのだが、残念なことに二人の痕跡はここでは見つからない。
　そのとき、遺跡がオオオオォォォンと唸るような音を立てて微振動した。
「地震でしょうか？」
「やだ、不吉ね」
　梢とブリジットが顔を見合わせる。
「ここで立ち止まっていても仕方がないわ。三手に分かれましょう」
　と梨香は言い、左手に伸びる赤の回廊行きを宣言する。
　それをきっかけに、メンバーはそれぞれ自分が行く道を選択した。

　梨香と同じ赤の回廊を選んだのは、朝鳥さゆる、サキリ・デイジーカッター、桜庭円、夜海霧楓。
　右に伸びる青の回廊を選んだのは、神薙焔、如月庚、新田亮、御剣刀、屋敷野梢。
　中央の緑の道を選んだのは、恵御納夏夜、伏見真、ブリジット・アーチャー、水戸健吾、八神修、そしてユチェンである。

　同じ道を行くことになったユチェンに、修が声を掛ける。
「ユチェン。道を逸れないよう約束してくれるか」
「はい。もちろん」
　その返事に満足したように頷くと、合図用の呼笛とライト渡す。
「それと、」と寝子島に戻って来てから、島の桃の木で作った桃木剣も渡す。
「自分の身をまず守ってほしい」
　こくり、神妙にユチェンは頷く。その耳元に、修はそっと告げた。

　――が、その上で可能なら女性達を守ろう。

　ユチェンははっとして修を見つめ、修はウィンクでそれに答える。
「俺達は男だ。男としての心構えだ」

　一方、真も品のよい朱の風呂敷に包んだ棒状のものを、ユチェンに渡した。
「僕もええもんこうてきたんやけど、渡そうおもてたん忘れとったわ」
　綺麗な指先で風呂敷を開くと、現れたのは桃木の短剣。
　ユチェンは有難く受け取り、腰に修からもらった長剣と真から貰った短剣を二本差しにした。
「ふたりとも、ありがとう。――オレ、使いこなせるかな」
　ユチェンは師匠と慕う楓へ、わずかに不安そうに視線を送る。
　楓はそんなユチェンの肩をひとつ叩いて言った。
「今回教える事は特にねえ！　以上！」
「でも、オレ、まだぜんぜん……師匠みたいに強くない」
　師匠。そう呼ばれはするが、楓にすれば依頼上の成り行き。教えたのは生きる為の身の守り方であって、誰かを助ける為の物かと聞かれると疑問符が浮かぶ程度のものだ。使い方次第で使える可能性はある、というくらいだろう。今彼に伝えられることは、強いて言うなら――、
「そう成る必要があるから成る」
　マインド。
　ただ、それだけ。あとは本人次第。
　強くなる必要があれば、成長する必要があれば、自ずとそうなる。
　青の回廊の奥を見据えた楓は、連絡用のイヤホンを耳に嵌める。
　もうユチェンを振り返らない。

　一行は、通信機や携帯スマホでの連絡が可能なことを確認。
　何かあったらお互い連絡を取り合うことを約束し、それぞれ、回廊の入り口へ。