＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●鈴島：到着

「そんなことが……」
　鈴島に到着して、去っていく海上タクシーを見送ってすぐ遭遇した焔から、船長の話より詳しい二人の様子を聞くことができたサキリは、ふむ、と考え込んだ。船長の話では「黒衣の只ならぬ雰囲気のふたり、心中かと思った」ということだったが、焔の話からは奇妙な二人の関係性が垣間見え、また疑問が増える。
「クロードにクローネ……」
　口に出してみる。単純に名前から見て関係は有りそうだが、未だ推測の域を出ない。
「四十九院先生とクローネには何らかの関係がある気がする」
　サキリのこの考えに賛同する者は多かった。ただ、四十九院先生が自分たちの味方であるフツウの先生であるのか、なんらかの邪な意図を持ってクロードに自らの意志でついていったのかは、メンバーの中でも意見が分かれている。

「クロードと四十九院先生。当事者同士、話がついているのかなって気もしたけど、そうでもない？」
　桜庭円が首を傾げた。
「私が聞いた限りでは、四十九院先生の方は話が見えないという雰囲気だったわ」
　焔は二人の様子を思い出しながら答えた。
　かといって、暴れて逃げ出す様子でもなかったのは、四十九院先生の好奇心の現れだろうか。
　円はもう一度、首を傾げる。
「わからないなぁ」
　焔はあまりそのことにこだわるつもりはなかった。
「とにかく、足跡は森の中へ向かっているみたい。今は考えるより、追いかけるのが先決よ」

　夏を前に伸び盛りの下草をかき分け、一行は森の中を進んでいった。
　蔦の絡んだ朽ちた柱が道の両脇を守護している。
　柱の間の藪をかき分ける。細い下り階段が現れた。
　これこそが遺跡の入り口と思われた。
　八神修が一歩下がって、遺跡の全体像を把握しようと試みる。
「樹々に遮られてわかりにくいが……塔のようなものが三本、中心付近もドームっぽいなにかがあるな」
　塔の位置関係を頭に入れ、先に進む。
　壁一面に蔦の絡む半地下の長い回廊。
　天井部分は梁が渡されていて、屋根のように生い茂る緑の葉の隙間から、午後の木漏れ日が差し込んでくる。
　しばらくまっすぐ進むと、今度は上りの階段があって地上に出た。
　その先は藪道だ。
　長い年月の間にすっかり植物に侵食されてしまったのだろう。
　先に誰かが藪をかき分け、下草を踏んだ痕が残っている。さほど時間は経っていない。
「クロードたちか？」
　痕はまっすぐ進んでいた。
　追うように崩れた壁に沿って進むと、背の高い壁を持つ建造物の前に出た。
　壁の向こうに塔の先端が見える。
　ここまでが参道のようなものと考えると、この先こそ遺跡の本番と考えてよいのだろう。
「わわっ！」
　一歩踏み出した円は、足元にネズミの死骸が２匹落ちているのに気づいて飛び上がった。
　青龍刀の先で突いてみる。毛皮は新しいのに、妙に干からびている。
「なんか、血が吸い尽くされてるみたい。まさか、クロードの仕業？」
「分からない、けれど……念のため、僵尸になって動き回ったりしないよう、札を貼っておくね」
　恵御納夏夜は屈みこんで両手を合わせると、黄の猫付箋に血で『勅命陏身保猫』と記して自作した僵尸対策の猫札をネズミの死骸に張り付け、さらに土を掛けてやった。
「でもどうしてこんなことしたんだろうね？」
「なぜ、だろう」
　不穏な気持ちで、夏夜は遺跡を眺め見た。
　先はトンネルのような回廊になっていて、正面と左右の三方向に分かれるようである。
　修も入り口から三方向を覗き見た。