＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●鈴島：緑の回廊、三人目

　同刻。緑の回廊の一行も、クロードの出現に行く手を阻まれていた。
「寝子島で目立つことをすれば、あなた方ならきっと追ってきてくださると信じていました。さあ、珠をこちらに渡していただきましょうか」
　伏見真がユチェンを、ブリジット・アーチャーが水戸健吾を守るように腕を広げる。
　その前に、恵御納夏夜と、八神修が立ちはだかる。
　通信で、他の回廊にもクロードが現れたことを知ったは夏夜は単刀直入に質問をぶつけた。

「分身できるんだね？　あなたはもれいび？　誰の？　絶神？」

　クロードは質問に答えなかった。
「珠があるのは遺跡が震えたのでわかりましたよ」
「渡さないよ」
　夏夜は桃木で作った戦輪を投げつける。クロードが身を反らせて避けると、戦輪はブーメランのように弧を描いて、夏夜の手元に戻ってきた。
　次の呼吸でクロードは一気に間合いを詰め、夏夜の心臓に鉄剣の切先を突きつける。
「珠を」
「渡さない。先生も、零神像のもう半分も取り戻すし、零神の宝も僕等が貰う。千年を生き飽きた老害め。絶神とやらの姿も見れずに消滅しろ！」
　夏夜は呪いの言葉を吐き捨てた。
　クロードが握る鉄剣に力が籠められる。切先が衣服に食い込む。
「貴女にとっては、命をかけるほどのものじゃあないでしょう？」
「そんな言葉で、僕の気持ちは、動かせない！」
「そうですか？　ではお仲間に聞いてみましょう。……珠は何処です？　彼女の命と引き換えにするほどじゃあないでしょう？　こちらも貴方たちの命に興味はない。取引と行きませんか」
　クロードは一同の顔を見渡し、誰も口を開かないのを見て、口元を歪める。
「おや。このお嬢さんが持っているのでしょうか？　それともあなた方は持っていない？　それならそれであなた方を片付けてから探せばいい話ですが……黙っていたら命の保証はできませんよ？」
「待て」
　修が幾重にも包んだ風呂敷包みを手に進み出た。
「半身像と珠はここだ。恵御納から離れろ！」
「八神君！」
　夏夜が、だめ、というように小さく首を振る。
「いいんだ。俺には友人の方が大切だ」
　クロードは満足そうに微笑む。
「お嬢さん、物わかりのよい友人に恵まれて幸せですね。先ほどの暴言は忘れて差し上げましょう。――さ、その包みをこちらへ」
「恵御納から離れるのが先だ」
「先、というのはいただけません。同時にしましょう。それならよいでしょう？」
「わかった。カウントするぞ。３、２、１――やるよ！」
　修は風呂敷包みを放り投げる。
　クロードも約束を守り、鉄剣を夏夜から離すと、片方しかない手で包みを掴む。
　その瞬間、修は精神を集中させ、幾重にも包んだ風呂敷包みを＜分解＞した！
「残念、像じゃないんだ――桃爆弾！」
　弾かれるように中から出てきたものは『蟠桃（ばんとう）』といわれる中国の桃の実。日本の桃と違って硬く、桃源郷の不老不死の仙果だと考えられてきた。桃の実も邪気を払うと考えられているのである。
「ううっ！」
　クロードは桃の実を嫌がって後ずさった。
　桃木剣が効くなら桃の実も、との修のアイデアは、的を得ていたといえよう。
　一方、夏夜はクロードと間合いを取ると猫シールを飛ばす。彼女は半身像を守るために、修と協力していたのだ。もちろん桃爆弾のことも知っていた。だめ、と首を振ったのは演技。もう手加減なんかしない！
「重くなれ！」
　シールを張り付けた対象の重量を変化させる＜重く軽く＞で、クロードの衣服を重くする。
　急激な重量変化に、クロードは思わず膝をついた。
「形勢逆転だ。そっちが持っている像を渡してもらおうか」
　修は爽やかに笑って、今度は逆に桃木剣の切先を、クロードの額につきつけた。
「面白い」
　クロードは、くくく、と咽喉の奥で笑い、左手を高々と上げる。

　それから「ぱちん」と指を鳴らした。