＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●鈴島：青の回廊、髑髏茨＜開花＞

「くっ、まだ出るの、こいつ！」
　中心部に向かって急いでいた青の一行は、あと一歩というところで足止めを喰らっていた。
　前方から現れた髑髏茨に再び行く手を遮られたのである。
　しかも、今度のやつは身体に巻き付く茨の節々から真っ赤な薔薇の花が咲き誇っており、まるで全身を血まみれにした骸骨兵士のようで不気味だ。右腕はだらんと垂らし、前方に伸ばした左腕のその指先には、まるで血が滴るかのような真っ赤な花が零れ咲いている。
　髑髏茨は数メートル手前で立ち止まり、ぎこちなく体を小刻みに震わせた。
　すると薔薇の花も一斉に震え、あたりが黄色く煙るほどの花粉がまき散らされる。
「あの花粉、絶対、吸い込むとロクなコトにならないわね」
　神薙焔は即座に口と鼻を覆うようにバンダナを巻いた。目の粘膜は装着済みのゴーグルで守れるだろうという算段だ。如月庚もハンカチをマスクのように当て、用意周到な新田亮はガスマスクを装着する。
「なんかゾンビみたいですね。こいつもクロードさんだったりして」
　屋敷野梢もハンカチで口元を押さえつつ後ずさった。
「『実は私もクロードなのだよ。クックック、土下座したら許してあげるぞ如月君？　人の黒を見たその罪をな……』」
「ありゃあ事故だし今それどこじゃねえ。真面目にやれよ。……捲るぞ」
「じょ、冗談ですよー」
　庚の言葉を真に受けたわけではなかったが、梢は最後方まで下がると＜胡蝶の詩＞で蝶になった。
　これならほとんど花粉の影響は受けない。
　髑髏茨はふたたびぎこちなく前進を始めた。構える亮と庚に、御剣刀が策を授ける。
「俺が高速移動で花を落とす。その隙に、頼む」
「応！」
「了解だ」
　かまいたちのような風が吹き抜け、刀の姿が消えたように見えた。
　次の瞬間には、髑髏茨の周りに竜巻のような旋風が起こる。
　真っ赤な花びらが宙に散る。
　さらに次の瞬間、髑髏茨の向こうに真一文字に刃引き刀を払った刀の後ろ姿が現れる。

「今だ！」

　刀の声と同時、亮は息を吸い、脳内で唱える。

『７．６倍！』
　現時点での最高出力で＜鬼人の体（サード・フォース）＞を発動。
　７．６倍の身体能力で床を蹴り、髑髏茨に向かって左拳を突き出す！

　時同じく庚も額の傷をなぞり、＜青にして蒼穹＞を発動させた。
　さらにもう一度なぞって、進化能力も発動。
　超人的な身体能力で床を蹴り、髑髏茨に向かって蒼く輝く右拳を突き出す！

「うおおおおおっりゃああ！！」
「悪ぃが邪魔する奴ぁ退いてもらうぜッ！！」
　亮の左拳と庚の右拳は、茨のトゲもものともせず、同時に髑髏茨の頭蓋骨にめり込む！！

　うっ、という呻き声が、髑髏茨の中から聞こえた。
「痛いじゃないですか」
　頭部の茨がゆっくりと解ける。
　中から現れたのは――、
「クロード！！」
　亮がその名を呼び、庚は口の端を歪ませる。
「まさか、屋敷野の冗談が本当になるとは、な」
　その言葉を切欠に梢は蝶からもとに戻り、中華包丁で髑髏茨の右腕を切り落とす！
　宙でばらけた右腕はただの茨の塊で、なかにクロードの腕はなかった。
「片腕がないっていう事は、ちゃんと切れてたんですね。――クローネさん、でしたっけ」
　言い間違いでは、ない。
　クロードとクローネ。似すぎた名前。
　イコールの存在ではないかとカマをかけてみる。
　クロードはゆっくりと首を傾げた。
「神と間違われるとは光栄です」
「そうですかッ」
　梢はそれも想定内、と、あたりに散らばる薔薇の花びらを真っ赤な蝶に変えた。
　舞い上がる赤き蝶の群れに、クロードは視界がふさがれる。
「邪魔ですね。あくまで私の邪魔をするつもりですか？　貴女も幸せになれるというのに？」
「私の幸せは私が何とかします。違和感があるんですよ、貴方には」
　それだけ言うと、梢はふたたび自身を蝶に変え、赤き蝶の群れに紛れ込んだ。