＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●寝子島：旧市街、花森宅

　志波武道、音海なぎさ、小山内海の三人は、旧市街は猫又川沿いにある漬物屋『うめ河』のお隣、花森妙さんのお宅にやってきた。
　彼女は以前、落神伝説について調べていた際に知り合った百歳になるおばあちゃんで、足腰が丈夫だったころは毎日落神神社の掃除に行っていたという貴重な人物でもある。

「突然の訪問すみません。寝子島高校の者ですが、寝子島の歴史に興味があって、今色々と調べてるんですけど……直接話を聴くのが一番と思いまして」
　武道が礼儀正しく菓子折りを差し出すと、妙は快く四人を居間に招き入れて、座布団を勧めてくれた。自分をおぶって落神神社に連れて行ってくれたなぎさの顔も覚えていて、よくきたねえと顔をしわくちゃにして笑う。
「今はボクも落神神社に通って掃除をするようにしているよ」
「そうかい、ありがたいねえ。それで、このおばばに聞きたい話ってなんだい？」
　なぎさはさっそく、半身像の写真を見せた。
「盗まれてたご神体、見つけたんだよ。半分だけどね」
「あらあらまあまあ……このようなお姿で」
　妙は写真に手を合わせる。いったいどこで、と問われたが、さすがに中国で神魂騒ぎがあって大冒険の末に、とも言えない。話が長くなるからと濁し、なぎさは折本の方の写真と、訳した内容を伝えた。もっとも、古本屋で見つけた古い書物の一件は敢えて伝えなかった。古本屋の先代の罪は、妙には伝えずともいい。
「妙おばあちゃん。伝説の落神が、じつは零神と絶神、二柱だったって話は、昔から伝わっていたのかな」
「いんや、聞いたことないなあ。んだけども、千年も経ったら忘れられることだってあるよぉ。寝子島といやあ落神伝説っていったって、『らっかみおろし』とかそういうお祭りでちょこっと話が残ってるだけだったもの。落神神社のほうは廃れ放題だったしねえ」
　首を傾げる妙に、今度は海が訊ねてみる。

『掃除をしに通っていたころ何か変わったことがなかった？』

「あのころから、ずいぶん荒れてたよ。でも、今より子どもらが集まって来て、いい遊び場だったねえ」
『おとなりの梅川さんとか、松田さんとかも遊んでた？』
「そうそう。男の子四人でなんとかごっこってよくやってたわぃ」
（――寝子島ふぁんた爺ズだ！）
　海は思った。妙が百歳、ふぁんた爺ズは七十代。ふぁんた爺ズが子どもの頃というと、妙は三十代から四十代だろうか。懐かしむように遠くを見遣るような顔はきっと、小学生の頃の可愛い四人が境内でわいわい遊んでいる光景を思い出しているのだろう。
　すると何か思い出した、というように、妙はひとつ手を叩いた。
「そういえば、昔、落神神社の境内でだけ遊ぶ手遊び歌があったねえ」
『てあそびうた？』
「たしか、こんな歌だったよ」

　　♪おーつきさん　おーつきさん
　　　あーか　あーお　みどり
　　　みっつあわせりゃ　くろくなる
　　　ひっくりかえせば　しろくなる
　　　よるにおはよう　ひるにおやすみ
　　　おーつきさん　どーこだ♪

　歌に合わせて妙は手のひらを表にしたり裏にしたり丸めたりした。
　海が歌詞をメモする。
　なぎさは隣にいる武道に耳打ちする。
「志波君。赤、青、緑って」
「回廊の色といっしょだ。それから黒、白、夜、昼って対になる言葉も、月も……探索班がそれぞれ小塔で見つけた球体の仕掛けに関係がありそうな気がする」
　武道は妙に向き直って尋ねた。
「鈴島の右の島が落神神社と関係があるって噂を聞いたんですけど、何かご存知ですか？」
「鈴島かい？　鈴島っていやあ、鈴島海賊だがねえ」
　何か思い出しそうに口をもぐもぐと動かす妙おばあちゃん。武道はじっと言葉を待つ。
「鈴島海賊といえば、浦島太郎みたいな話があったね。亀に乗って、海の中の島に、大事なお宝を隠したんだ。そのお宝って言うのは真っ赤な『玉手箱』だって話だったよ」
「玉手箱？」
「そうそう。浦島太郎のお話とおんなじにね、開けると煙が出て来ておじいちゃんになっちゃうそうな」
「その話って有名なの？」
「有名じゃあないよ。うちのじいちゃんのホラ話だと思ってたよ。だって、あんまりにも浦島太郎に似てるんだもの、誰も信じてなかったと思うよ。でもねえ、じいちゃん船乗りだったから、鈴島海賊の伝説はみんな信じてた。ああそうだ、じいちゃんはこう言ってたねえ。玉手箱の中に入っているのは本当は『時』なんだよ、って」
「すみません、その箱の話もう少し詳しく。開け方とかって聞いてませんか？」
「はあ～たしかねえ、鈴島海賊の玉手箱は三人で開けるんだよ。三人っていうのは『過去』『現在』『未来』さ。……こんなヨタ話、役に立つのかい？」
「ええ、きっと」