＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●鈴島：赤の回廊、ネムリグサ・その１

　赤の小塔を入ってきたのとは違う出口から出た以降は地図を頼りに角を曲がる。三つの班の中で一番中心部からは遠いが、この先も一本道だ。まっすぐ進んで三度、回り込むように角を曲がれば中心部に着くはず。
　先頭は変わらず朝鳥さゆるだった。
　ロングコートの裾を翻し、厚底ブーツを鳴らして広いストライドで駆けてゆく。
　振り返ることなく皆を引き離していたさゆるが、回廊の半ばで突然どさっと倒れた。
「朝鳥！？」
　サキリ・デイジーカッターは即座に駆け寄ろうとした。しかし、次の瞬間、さゆるの倒れたあたりに薄紅色の可憐な花が咲き乱れているのを見つけた。
　頭の中に警報が鳴る。あの花は怪しい、気を付けろ、と。
「どうしてこんなところに花が……ん、あれは？」
　立ち止まったサキリは、さゆるの傍に黒いワンピースの人影が倒れていることに気付いた。
「四十九院先生！？」
　脳内警報を無視して駆け寄ろうとして、異様な眠気に襲われ、とっさにナイフで小指の生爪を剥がす。
「う、……ッ！！」
「きゃあああ！　サキリ君！　何やってるの！？」
　梨香が慌てて近寄ろうとするのを、サキリは拒否し、瞬間移動で梨香たちの元に戻る。
「だめだ。迂闊に近寄ったら危険だ」
　おそらく花のエリアに入ったときに急に襲われた眠気で、さゆるも突然倒れたのだ。
　四十九院先生も同じだろう。
「何かが起こってるんだ」
　梨香はサキリの手当てをする。すると、桜庭円が飄々とした口調で言った。
「ボク運がいいから偵察してこようか？」
　『運がいい』なんてアテにならないような理由を告げられた坂内梨香は、円の肩を掴んで引き留める。
「危険よ」
「その方がボクには安全なんだ」
「危険な方が安全だなんて、なにを訳のわからないことを……」
　梨香が言うのも聞かず、円は自分の身体にロープを巻き付け、片一方の端を梨香に持たせた。
「何かあったときは引っ張って。ということで、行ってきます！」
「なにが『ということで』よ！」
　円は気軽な様子で近づいていく。
　円には確信があった。
（危険なものなら、ボクは大丈夫。だってボクのろっこんは……）
　＜ブレイブハート＞。自発的に、危険度の高い行動を取ると、その分運も良くなるろっこん。
　だからもう、絶対大丈夫だって自分を信じられるのだ。
　薄紅色の花が絨毯のように広がるエリアに近づいていく。
　まだ、何もない。
　足を踏み入れる。
　……瞼が、重い？
「な、なんか眠たくなってきた。いや、でも……眠気なんかに、負けない！」
　次の瞬間。

　――ぐぅ！

「ちょっ……桜庭さん！　ったく！　何やってるのよ！」
　梨香はロープを引っ張った。が、小柄とはいえ眠りこけている高校生の身体は重い！
「夜海霧君！　手伝って！」
「仕方ねぇ」
　夜海霧楓も一緒に引っ張り、円はずるずると引き戻された。
　気持ちよさそうによだれを垂れて眠る円の頬を、梨香はぺちぺち。
　すると円は、ぱちっと瞼を開け、飛び起きた。
「はっ！！　すっごくいい夢見てた！！」
「夢？」
「ああああ～～～！！　もうほんと最高の夢だったのに、忘れちゃった～～～！！！」
　地団太を踏んで悔しがったって、夢のことではどうしようもない。
　梨香は深くため息をつき、サキリを見た。
「もう。寝ぼけてる桜庭さんは放っておいて……サキリくん、どう思う？」
「どうやら、あの花に近づくと眠ってしまうようだね。さしずめ『ネムリグサ』ってところかな」
「対策は？」
「花粉などが眠りを誘う成分だと考えられるから、この地帯を早く駆け抜ける事を提案するよ」
　サキリはそう言うとタオルで口と鼻を覆う即席マスクを作り、女性陣にもハンカチなどで口と鼻を覆うよう勧めた。
「オーケー。じゃあ、途中で朝鳥さんと四十九院先生を回収して出来るだけ速やかに花エリアを抜けること。夜海霧くんも、いいわね？　――って、寝てる！？」
　いつの間にか一人で様子を見に近づいたのだろう。楓は花の傍ですやすや寝息を立てているではないか。
「もうっ！！　何やってるのよ！」
　憤る梨香に、サキリは苦笑する。
　仲間と四十九院先生を助けなくては。