＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●鈴島：青の回廊、小部屋１

　同刻、青の回廊班の神薙焔、如月庚、新田亮、御剣刀、屋敷野梢の五名は、サバゲスーツ姿の焔と防刃パーカーに身を包んだ亮を先頭に、真っ青な回廊を進んできた。焔と亮のあとに、Leidenschaftのリーダー庚と副リーダーの梢が続き、しんがりは黒いズボンに白いシャツ、赤いジャケットを羽織って和風剣士な出で立ちの刀だ。
　回廊に塗りたくられた青という色のせいだろうか、夏だというのにひんやりとした冷気が何処からか漏れて来ているように感じられる。
　そして今、回廊の途中で立ち止まった五人は、薄暗がりの中、光を放つ刀のスマホを囲んで、映し出された赤の小部屋の壁画の画像に見入っていた。
「狼に傅く烏……クローネか？」
　――四十九院先生とクローネには何らかの関係がある気がする。
　サキリが言ったのと同じようなことを、庚もうっすらと考えていた。
　クローネを倒した後に現れた四十九院先生。彼女には何処となく既視感を感じている。
「クロードとクローネ、少し気になる」
　庚の呟きに答えたのは刀だ。
「名前もちょっと似てるな、案外関係者？　クロードの口の割れ方とかあれ鳥のくちばしじゃないか？」
　クロードと鍔迫り合いの戦いを繰り広げた刀は、かの男の口が耳元まで裂けた様を間近で見ている。口内には刃物のように鋭い歯が幾重にも並んでいた。人ではもちろんあり得ない。かといって、神というには人くさい卑しさもあった。
　妖怪。
　そんな言葉がしっくりくる気もする。

「なんか、変なんですよ」と梢が言った。
「変って、何がだ」庚が訊ねる。
「あの口うるさい――けどかわいい――テオが……あれから、介入してきてなくって」
「なるほどそういやテオがいねぇな……」
　青の幽玄から寝子島に戻る時、遠くに声を聞いたきり、テオからの介入はなかった。
「ま、能力が残ってる以上、落神は存在はしてますよね。念のため、覚えておきましょうね、テオのこと。如月君、紅燈火街で買ってきた中華包丁にテオって彫っててください！」
「屋敷野……前回のロープといい、俺をこき使いすぎだ。……御剣、刃引き刀貸してくれ」
「？　いいけど」
　庚は刀に借りた刃引き刀の先っちょで、梢の中華包丁の柄に弱々しく「テオ」と刻んだ。
「ほらよ」
「これは……テオの存在の薄さを具現化したような、へろへろな字ですね」
「借りもんの刃引き刀で、彫刻刀みたいに彫れっかよ」
　ふいっと横を向く庚。梢はその横顔と、へろへろの字を見比べて、くすっと笑ってしまった。
　へんなお願いも聞いてくれる相棒が傍にいる。たとえ世界が変わってたって、大事にされているのだ、自分。
「まあ、こんな事態になっちゃってますけど、私はクロードさんに怒っちゃいないんですよねー」
「クロードに関しちゃ、そうさな。恨みはねぇ。俺達の領分に作用する企みなら阻止させてもらう、それだけだ」
「ええ。その通り。ああいう人の野望は、大体ろくでもないですからねー」
　如月君然り、と横目で見る。そんな梢のこめかみを、庚はぐりぐりとグーで小突いた。
「バッカお前、俺がいつ変な企みしたよ。大体俺ぁ、その日のメシどうすっかとかバイトの給料で何すんべとかそんぐらいしか考えてねぇよ」
「ふふ、そうでした」
「納得すんな」

　お約束の夫婦漫才を聞きながら、一行はまた歩き出す。
　角を曲がると、先頭の焔が立ち止まった。
「小部屋があるわよ」
　左手に、四角い入り口がぽっかりと口を開けている。扉もなければ鍵もない。道は真っすぐ続いており、部屋に入らないという選択もできる。
　小部屋を覗く。人の気配も、直前に誰かが立ち入ったような跡もない。
「寄り道なように見えて何かあるのが鉄板です！　中に入りましょう」
　梢の意見に皆も賛同した。
「俺は入り口で見張ってる」と亮が言った。「敵が襲ってこないとも限らないからな」
　そこで、残りの四人が小部屋に入った。