猫耳にゃん！｜リアクション

猫耳にゃん！

　放課後の図書館の隅っこに蠢く物体。けれども八神修は躊躇なく話しかけた。
「あおい、どうしたんだい？」
　その声に、小さく丸くなっていた七夜あおいが涙目で彼を仰ぎ見た。
「猫さんの耳が生えちゃったにゃん、修君～」
　―――ズッキューン！！！！
　猫耳＆尻尾＆うるうる瞳のあおいの姿に、修のハートが撃ち抜かれた。

（ちょっと待て、何だこの可愛い生き物は）
　動悸息切れ目眩。恋の病にやられながらも、修はあおいの許に歩み寄り優しく声をかけた。
「どこか痛いとかないか？　大丈夫なら様子を見よう。きっと暫くしたら治るとは思うけど……にゃん」
　多分これ、神魂の影響だよな……ん？　にゃん？
　自分自身の違和感に修は首を捻る。すると少し落ち着いたあおいが、修を見てぱちくりと目を大きくした。
「修君にも猫耳生えてるにゃん？」
「にゃっ？！」
　衝撃の指摘に修はハッと頭を押さえる。そこには確かに違和感が。振り向けばぴょこぴょこと尻尾が揺れていた。
（……ああっ、俺が猫になっても可愛くなーい！）

＊

　結局揃って猫耳＆尻尾になってしまった２人。にゃんにゃんと相談の結果、取りあえず人目を避けようと車を呼び、修の家に避難する事にした。

「あおいは図書館に本を借りに来たのかにゃ……来たのか？」
　居間に座り漸く落ち着くと、修があおいに話しかけた。自分がにゃんと言っても可愛くないだろうと、猫語をぐっと堪えて。
「うーん、現代文の宿題なんだけどにゃん。借りる事は出来たけど、目を通そうとしたらいきなり猫耳で……修君はにゃん？」
「俺はこれ」
　そう言って修がカバンから出したのは分厚い経済書。そこに挟まっている栞を見て、あおいはぴくりと猫耳を動かした。
「あ、その栞」
　修はニッコリと笑った。それはお祭りの時に買ったあおいとお揃いの栞だ。
「紫がキレイでお気に入りなんだ。よく使ってる」
　君とお揃いだから、という想いは自分の胸の中にそっと挟んで。修の言葉にあおいはにっこりと笑った。
「私もレシピ本に挟んで使ってるにゃ。ありがとにゃん、修君」
「そっか、良かった」
　猫耳２人はふふと微笑みあう。すると修の後ろから「ニャー」という鳴き声が聞こえた。
「あれ、お前達」
　見れば修の尻尾に飼い猫達がたくさんじゃれている。その様子にあおいが楽しそうに笑った。
「修君、猫の国の王子様みたいにゃん」
「いや、王子様って……。でもあおい、君の尻尾にも」
　え、とあおいが振り向けば、彼女の尻尾にも子猫達がじゃれている。修が微笑んだ。
「あおいは猫の国の王女様だな」
「えー？　……でもちょっと楽しいにゃ♪」
　２人は暫く猫達と遊んでやる。猫達が少し落ち着いてきた時、修が立ち上がりあおいに言った。
「あおい、折角だしこの前見つけてくれたレシピ本で何か作らないか？」
　どうもまだこの現象は収まらないようだし、と言葉を続ける修に、あおいは元気よく頷いた。

　２人は相談の上、クッキーを作る事にした。こうして始まった猫さん達のお菓子作り。生地をこねて、型抜きをして。勿論壊滅的な腕を持つあおいが入ればそうおいそれとまともな物が出来上がる訳がない。半分近くは生地がじゃりじゃり、もう半分は香ばしいを通り過ぎ焦げ臭いクッキーが出来上がったが、修は全く意に介さなかった。
「―――何とか出来たね！」
　満足そうに言うあおいに修は微笑む。君と作る物はどんな物だって、幸せの味がするんだ。

　テーブルには出来たてのクッキー。熱々の紅茶を淹れ、２人で啜れば。
「「熱っ！」」
　２人はびっくりした後、ぺろりと舌を出した。
「猫舌」
「だったにゃん」
　修とあおいは言い合うと、くすくすと笑う。それからふーふーと紅茶を冷まし、ゆっくりと啜った。
　猫さん達のお茶会はちょっぴり大変だけど、とても楽しそうだ。