猫耳にゃん！｜リアクション

猫耳にゃん！

　放課後の理科室の戸がカラリと静かに開き、女生徒が姿を現した。
「尚輝先生、困った事になりましたにゃん」
「ああ御巫さんこんにちは。……仮装ですか？」
「いいえ。突然さっき生えてきましたにゃん……」
　御巫時子は五十嵐尚輝の前で、しゅーんと黒い猫耳としっぽを伏せた。

「これは……すごい」
　落ち込む時子を取りあえず椅子に座らせると、尚輝は興味深そうに彼女を眺めた。その熱い視線に時子は恥ずかしくなり、首まで赤くなってしまう。
「このしっぽも本物ですか？」
「……ひにゃ！」
　尚輝はひょいと時子のしなやかなしっぽを握る。途端に時子は力が抜け、へなへなと尚輝にもたれかかってしまった。
「あ、すみません御巫さん」
「だ、大丈夫ですにゃ……ただちょっとしっぽは敏感なようですにゃん」
「そうですか、失礼しました……ふむ、猫の特性がそのままのようですね……」
　そう言うと尚輝は今度はゆっくりと時子の頭を撫で始める。その温かさに時子はふにゃりと表情を崩した。
「気持ちいいですにゃん、尚輝先生」
「それは良かった。耳の後ろなんかもいいと聞きますけど」
「はい。もっと撫でてほしいにゃん……」
　尚輝の掌の気持ちよさに、時子はうっとりと瞳を閉じる。この気持ちよさは猫になってるからなのか、尚輝が撫でてくれているからなのか、時子には分からない。ただただ幸福感が時子を包む。猫が撫でられて気持ちよさそうなのは、きっと大好きな人に撫でられてるから。
　時子は薄く目を開ける。そしてひょいと尚輝に顔を近付けると、彼の耳を軽く噛んだ。
　それは、猫のありがとうの気持ち。でも人間としては。
「……御巫さん？」
　尚輝が手を止め、きょとんと時子を見る。その至近距離に、時子は自分がとんでもない事をしたと悟った。
「ご、ごめんにゃさい先生！　なんか行動まで猫さんになってきてるみたいですにゃん……」
「ああ、なるほど。感情表現も猫化の傾向あり、と……」
　真っ赤になりながら消え入るように説明する時子に尚輝はふむと頷く。そして時子をもう一撫ですると言った。
「突然の事で御巫さんも疲れたでしょう。コーヒーでもどうですか？　……あれ、猫は飲めるのかな」
「あ、猫さんはダメかもですけど、私は大丈夫ですにゃん！」
　慌てて言う時子に、尚輝はよかったと微笑んだ。

　こうして教師と猫耳女子高生は仲良くコーヒーブレイク。いつもより猫舌な時子がふうふうと冷ますのを、尚輝はのんびりと見守っている。漸くコクリと飲むと、時子は微笑んだ。
「美味しいにゃん」
　時子の笑顔に尚輝は優しく頷き、自分もビーカーからコーヒーを啜る。
　いつものように流れる穏やかな時間。突然猫になってしまった時子の不安は、コーヒーの香りに溶け消えていった。

　結局帰る時まで猫耳としっぽはそのままだった。（そして時子は高い所に登りたくなってそわそわしたりして、いつもよりちょっぴり落ち着きなく過ごしてしまった。）
　それでも、尚輝との時間は時子に元気を取り戻させていた。
「では帰りますにゃん、尚輝先生」
「ええ、気を付けて。僕の考えでは今日中に元に戻ると思いますが」
「はい」
　尚輝の言葉に頷くと、時子は１歩前に出て、尚輝の胸にほっぺをすりすり。そしてにっこりと笑って言った。
「今日はありがとうございましたにゃん」
　―――少し大胆になれる、この猫さん状態もいいなと思いながら。

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あとがき

担当マスター：ＫＡＮ
ファンレターはマスターページから！

ＫＡＮです。
ご参加の皆様、ありがとうございました！

にゃんにゃんアクションが可愛くて、楽しく書かせて頂きました。
皆様の可愛さがリアを通して少しでも伝われ……！

なお今回のしっぽの扱いは『服からどうしても飛び出てしまう』としました。神魂の影響です。
すみません、マスコメに一言書いておけばよかったですね……。
ファンタジーの獣人さんは産まれた時からしっぽだから、きっと服に穴が空いてるんでしょうけど。

それでは。
またシナリオでお会いできる事、楽しみにしています！

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