猫耳にゃん！｜リアクション

猫耳にゃん！

「ふにゃああ～……」
　佐藤瀬莉はちょっとおしゃまだけど、普通の小学生（+もれいび）。今朝だって学校に遅刻しないようにと眠い目をこすりこすり洗面台の前に立ったのだけど。
「にゃ、にゃにこれ～～～？！？」
　瀬莉はポンとそのしっぽを膨らませた。だって、鏡に映る自分の頭に猫耳が生えているのだ。……ん？　しっぽ？
　瀬莉は自分のお尻を見て再び叫んだ。
「にゃんでしっぽまで～～～？！？」

＊

（うう、どうしてこんな目に）
　寝子電に乗った瀬莉は、手すりを持ちながらぐったりと肩を落とした。
　あれから大変だった。猫耳だわ、何を言ってもにゃんにゃん言うわで両親は訝しがる。神魂の影響であるのはもれいびの瀬莉には分かっていたが、両親にはこう言うしかなかった。
『今日は猫になりきりたい気分にゃ♪　だから猫耳をつけたのにゃ』
（何よ、猫になりきりたいって……）
　思わず自分にツッコんでしまう。けれども仕方あるまい。猫耳だって学校には行かなくてはならないのだから。
　今猫耳は帽子の中、しっぽはスカートから突き出てゆらゆら揺れている。どうもしっぽはどうにもならないが、猫耳は何とかなるらしい。けれども帽子は教室に着いたら脱がなくてはならない。さあどうする。ほっかむりでもするか。
　―――瀬莉は実は鏡の前でやってみたのだ。そこに映るのはランドセルを背負ってほっかむりをする少女の姿。しばらく瀬莉は鏡を凝視すると、深い深い溜息をついて手ぬぐいを取った。こんな怪しい小学生見た事がない。まだ猫耳の方が１００倍マシだった。

　瀬莉の家は星ヶ丘にあるので、彼女はいつも電車で登校している。揺れる電車の手すりにつかまりながら、瀬莉は憂鬱だった。しっぽ、変に思われてるわよね……。
　俯きながらしばらくするとふと目の端に何かが動いた気がして、瀬莉は帽子の中の猫耳ピンと立てた。
　目に入ったのは、綺麗な花だった。目の前に座っている品のいいご婦人が、花束を持っている。そのうちの１輪が走る電車に合わせ、ゆらゆらと揺れていたのだ。
（！）
　瀬莉の唇が楽しそうに引き上がり、花の動きに合わせて首が揺れる。花にちょっかいを出そうと無意識に片手を上げた時、パチリとご婦人と目が合い、瀬莉は慌てて下を向いた。
（何やってるのよあたしーーー！）
　動く花に飛びつきたい衝動を、瀬莉は手すりをぎゅっと握り、必死に押さえる。それをやったらヤバイ。明日からこの電車に乗れなくなる。……けど、けど。
（飛びつきたい……にゃ～ん！！）

　猫の本能と（なけなしの）人の理性との戦い。やばい、猫側優勢か……という時、とんとんと瀬莉の手が叩かれた。顔を上げると件のご婦人の笑顔。花を１輪差し出し、にっこりと笑っていた。
「お花、好きなの？　よければあげるわ、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます……」
　瀬莉はぴょこりと頭を下げ、呆然と花を受け取る。まさかのご婦人乱入で猫ＶＳ人間の戦いはドローとなり、瀬莉はどうやら明日もこの電車に乗れるようだ。ご婦人に何かお返しをしなければ。瀬莉はにゃーんと意気込んだ。

　学校に着いてからも大変だった。
「おはようにゃん！」
「どうしたの瀬莉ー？！」
　友達からは驚かれ、いじられ、遊ばれ。教室では金魚の水槽がどうしても気になり。
（うう、疲れる……）
　怒濤の時間を過ごし帰りの会が終わると、瀬莉は日当たりのいい自分の席でぐったりと倒れ込んだ。今日は午前授業。すぐに帰ってもいいんだけど……。
（この日向がたまらない～）
　瀬莉は目をつぶるとすりりと机に頬を寄せた。いつもよりお日様の暖かさがぽかぽかと身に染みる。
「にゃあ～。お日様気持ちいいにゃぁ～……」
　猫暮らしも悪くないかも。瀬莉はふわあ～と伸びをすると、ぴくりと猫耳を動かしながら陽光に背を丸めた。

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