猫耳にゃん！｜リアクション

猫耳にゃん！

「まさか尻尾と耳が直にぴょこりとはにゃ……」
　桜花寮の１室。黒兎都は姿見の前で、己の姿を映し呆然と呟いた。

　朝、もそもそと制服に着替えたら気付きました。頭と尻の違和感に。猫耳と尻尾。いや、コスプレ部とかで格好的にはにゃれてますが。
（……落ち着け、うち。思考回路はまだにゅこ語になってない）
　都は額に手を置きふうと息をつく。猫耳ですらどうかと思うのに、口を開けばあざといにゅこ語。これはひどい、ひどすぎる！　……にゃ。
（そもそもうち自身がにゅこ化して、誰得なんだ）
　にゅこ化したらにゅこ達に好かれる訳でもなし。ぐぅ。
　大好きな猫になぜか避けられっぱなしの都は、考える。じゃあ、自分をにゅこと思って（実際半猫だし）可愛がってみる、とか……？
（……やめよう、そんな不毛なこと）
　想像するだに恐ろしい絵面になる。都はふるると首を振ると、パーカーのフードを被って部屋を出た。綺麗に伸びた黒い尻尾を揺らしながら。

＊

（今日も、無事に学校に着いた……）
　楡宮遠海はふううぅ～と長い息をつくと、脱力したように靴箱に凭れた。超絶方向音痴の彼女は、学校に登校するだけでも一苦労なのだ。
　何とか上履きに履き替え、遠海はカバンからコンパクトを取り出し身だしなみチェック。よれよれ姿のまま教室に入る訳にはいかない。
　しかし、遠海はコンパクトを覗き込み、思わず耳をピーンと立たせてしまった。
「は？　にゃんで猫耳？」
　そう、遠海が立たせたのはキュートな猫耳。ガバリと後ろを振り返れば、ひょこひょこと尻尾が揺れていた。

（どうなってんの？）
　驚きはしたが、寝子高に入学して数ヶ月経った遠海にはいい加減分かってきた。
「……また神魂の仕業かにゃん？」
　そう、こういう不思議現象は、９割方そうなのだ。
　遠海は尻尾をカバンで隠してそろーりと周囲を伺う。すると３年生の下駄箱から声が聞こえてきた。
「都ちゃんどうしたの、その耳！」
「これには深ーい訳があるようにゃないようにゃ……」
「にゃ……！　にゃって……可愛いじゃないの！」
　見れば女の先輩が２人、じゃれあっている。正確には、制服の下にパーカーを着ている先輩が顔を真っ赤にしながら、一方的にもう１人に頭を撫でられている。その先輩の頭には、黒い猫耳がぴょこんと立っていた。
（やっぱり私だけじゃないのね）
　遠海は少し胸を撫で下ろす。が、さりとて状況が変わる訳でもなく。
「取りあえず学校の中にいれば、多分問題はないはずにゃん……」
　いや、本当は問題ありまくりな気がするけど。遠海は猫耳を力なく伏せながらとぼとぼと教室に向かった。

　それからお昼過ぎまで、遠海は苦難の連続だった。
　何を言ってもにゃんにゃんなので、授業中は冷や汗ものだった。そんな時に限って教科書の音読を指名されたりして。
　昼休みに食堂に行けば強烈に魚が食べたくなり、ついついボリューミーな『寝子まんま』を頼んでしまった。
（美味しーい！）
　遠海はあっけにとられる周囲を尻目に、パクパクと食べ進める。そしてペロリと完食すると、お替わりをするために席を立った。そう、彼女は典型的な『やせの大食い』なのだ。
（ああ、今日１日でお小遣いが……）
　財布を見つめ、遠海はにゃーんと溜息をついた。

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