猫耳にゃん！｜リアクション

猫耳にゃん！

　にゃにゃんにゃんと何だか朝から騒がしい寝子島高校。その校内をぼーっと歩く人物がいた。

「む……猫耳と尻尾のある人が多かですね……。お祭りのある日やったですかにゃん？」
　倉前七瀬は廊下を見渡し、んー？　と首を捻った。そう、男女問わずちらほらと、猫耳＆尻尾が生えている生徒がいるのだ。
（何でみんな仮装してるんでしょう。文化祭もまだですし……猫の日？）
　七瀬は片耳を伏せ、その猫のような翡翠の瞳をパチパチと瞬かせる。その時、彼の視界に見知った人物が入り、七瀬はぴょんと軽やかにジャンプした。
「先生～、おはようございますにゃ」
　廊下の先にいたウォルター・B。その頭からは猫耳がぴょこり。彼は美しい金色の尻尾を揺らして振り返った。
「ああ、おはようにゃん、倉前～」

　七瀬はウォルターの前に立つと、まじまじと彼を見た。
「先生、よう似合ってますにゃん」
　確かにウォルターの端正な佇まいに猫耳と尻尾はとても良く似合い、ファンタジーの獣人貴族のようだ。
（猫っぽい姿になっとっても、流石先生はかっこよか）
　七瀬は腕を組みうんうんと納得する。それにしても何で猫の仮装なんだろうと思っていた時、ふとある事に気が付いた。
（……先生の尻尾が動いとる。まるで本物の猫のようです）
　そうなのだ。にこやかに立つウォルターの背後で、金色の尻尾がさっきからゆらゆら揺れている。それを何の気なしに目で追っていた七瀬。すると不思議な事に体がうずうずとしてきてしまった。
「……うにゃ」
　右。左。ウォルターの尻尾に合わせて首を揺らす七瀬。
「どうしたにゃん？　倉前」
　ウォルターが首を傾げた時、彼の尻尾の動きが止まる。
（……止まった！　今ですにゃ！）
「にゃーーっ！」
　何と七瀬は猛然とウォルターの尻尾に向かって飛びついた。

「にゃっ？！　ちょっ、倉前？！」
「にゃっ♪　にゃっ♪」
　ウォルターの尻尾が揺れる。七瀬がじゃれつく。暫く２人はくるくると追いかけっこをしていたが、自分の尻尾が原因と気付いたウォルター。
「落ち着くにゃん、倉前」
　チョークを飛ばす代わりにぺしりと七瀬のおでこを手で覆い、彼を目隠しした。
「……ハッ！？」
　視界を覆われ、我に返った七瀬。ウォルターの手を恐る恐るはずし、しゅーんと耳を伏せた。
「申し訳ないですにゃ。先生の動く尻尾見とったら、ついつい飛びつきたくなってしまいましたにゃ」
「うん、いや気持ちは分かるにゃん」
　あははと笑うウォルターに、七瀬は感心しながら言った。
「それにしてもすごかですね。猫耳も尻尾も本物みたいです。なんで先生は猫耳つけとるんですかにゃ？」
「え、なんでって……ついてたからとしか言えないんだけどにゃん」
「？」
「でも倉前。君も猫耳ついてるにゃん？」
「にゃ？」
　ウォルターの綺麗な指が頭の上を指す。七瀬が自分の頭に触れると、そこにはもふっとした感触がした。
「にゃ？」
　後ろを見れば、灰色の長い尻尾がゆらゆらしている。そこで初めて七瀬は気が付いた。

「僕、猫になっとるにゃん……」
（……みんな気が付いてました七瀬さん！）

　七瀬の相変わらずの天然ぶりにウォルターはにゃんにゃん笑う、七瀬はぽおっと赤くなる。ひとしきり笑ったウォルターが目尻を拭った。
「いやぁ、僕のこと褒めてくれたけど、倉前。君もよく似合ってるにゃん？」
　そう言うとウォルターは七瀬の頬をペロリと一舐め。
　悪戯っぽく笑う金色猫に、天然灰色猫はますますしゅんしゅんと茹だるのだった。