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鏡の中に女がひとり、映り込んでいる。
鏡の向こうにはそう広くもないバスルームが見えた。
鏡の中の女が翠の色した瞳を瞬かせる。ぽたり、髪から冷たい雫が落ちた。真下の洗面台に落ちて排水口に吸い込まれて行く水滴を目で追う。透明な水が暗い穴に消えるまでを見つめてから、息を詰めていたことに気が付いた。慌てて息を吸う。
鏡の中、女の黒い髪が震えた。そろり、翠の瞳が持ち上がる。膝まである長いTシャツの胸に髪から垂れた水が冷たい染みを作った。
手を持ち上げる。自分の指と思しきもので、自分の頬に触れる。
鏡の中の若い女が自分と同じ仕草をしている。
(これが……わたし……?)
髪も頬も冷たい湿気を帯びている。洗面台の前に立っていることからして、顔でも洗っていたのだろうか。そう思ってから、違う、と否定する。
背後のバスルームから熱を孕んだ湿気が流れ出してきている。
(多分、湿っぽいのはそのせいだ)
自分は、ついさっきまでシャワーを浴びていた。
(そんなことより……)
意識して呼吸を繰り返す。そうでもしなければ、己を己と認識できぬ衝撃に息を忘れてしまう。
(わたしは、誰なの?)
心に呟いた途端、唇から、ひ、と悲鳴じみた声が漏れた。鏡の中の女の顔色がみるみる蒼白くなる。
「っ……」
膝からくずおれてしまいそうな身体を、洗面台の縁に両手を突っ張って耐える。乱れる呼吸を必死に整える。
鏡に映る女から視線を逸らすように、逃げるように踵を返す。風呂場を出、見慣れぬ部屋にまろび出る。
そこはワンルームマンションの一室であるらしかった。
必要最低限の生活用具しか置かれていない、殺風景な部屋を見回す。分厚いカーテンの引かれた窓からは、眩しい朝の光が一筋だけ流れ込んできていた。細い光が落ちたベッドの周りには、脱ぎ散らかした服とバッグが無造作に転がっている。
冷たい床を裸足で踏みしめ、ベッドに近づく。ぺたりと床に座り込み、バッグを手元に引き寄せる。
(わたしは、……)
バッグを開く指先が震えていて、少し笑う。己が誰なのか分からない『わたし』は、ひどく臆病な人間なのだろう。
笑えたことに僅かに安堵して、バッグの中を改める。見つけた財布を開いてみれば、写真付きの身分証明が二枚出て来た。一枚は運転免許証、もう一枚は寝子島総合病院のID。
「みくら、りさこ」
二枚の身分証明書を床に並べ、名義として記された文字を確かめる。二枚ともに書かれた名を口に出してみても、それが自分の名ではあるとは思えなかった。それでも、証明書に並ぶ『
深倉 理紗子
』の写真は、先ほど鏡に見た自分と同じ顔をしている。
どこか疲れ果てたような、それでもそれを隠して必死に踏ん張って立ち続けているような、張り詰めた糸が今にも切れてしまいそうな。『深倉理紗子』は、そんな顔をしている。
「二十八歳、内科医」
免許証と病院のIDを見比べ、自分を表す記号を拾い出してみる。そうしてみても、分かったのは自分の正体ばかり。名前と年齢と、所属する場所。『自分』を公的に示すものはたったそれだけ。
(わたし、は……)
他に何か己を証明するものはないかと部屋を見回してみる。脱ぎ散らかした服に然したる特徴はない。鞄の中にも財布と身分証明以外に自分を示すものは見当たらない。個人と個人の繋がりを示すもの、携帯電話のようなものはないかとベッドサイドを探してみたものの、見つけられなかった。どこかに落として来たのか、それとも職場に忘れてきたのか。
己を知る術をそれ以上に思いつけず、その場にへたりこんで呆然と動けなくなってから、しばらく。
(ここに居ても、仕方ない)
脱ぎ散らかされた服だけが唯一の生活感を放つ殺風景な部屋の真ん中、立ち上がる。部屋を再度見回して見つけたクローゼットを開き、適当な服を手に取って着替える。バッグに財布を放り込む。
(暗い部屋でふさぎ込んでも気が重くなるばかりだわ)
外に出ても何か解決策があるとも思えなかったけれど、何をするでもなく座り込んでいるより、当て所なくとも陽の光を浴びて歩いている方がいくらかはましというもの。
靴を履く。靴箱の上に投げ捨てられていた部屋の鍵を手に、ドアを開ける。途端に雪崩れ込んできた初夏の日差しの眩しさと朝陽の熱に瞳を突かれ、思わず瞼を固く閉ざした。瞬きを繰り返しつつ、家の鍵を閉める。
外廊下を渡り、道に出る。どこからか漂う梔子の甘い香りに混ざり、川のせせらぎが聞こえた。何気なく川音を探してみる。
住居としているワンルームマンションの前には小さな川が沿っていた。橋を経た対岸に、大きな建物が見える。
建物の壁に銘打たれた『寝子島総合病院』の名を確かめ、知らず小さな息が零れた。
(『深倉理紗子』さんの勤務先)
溜息の意味を探して首を捻るも、心の内にも頭の内にもその意味は探し切れなかった。突然の記憶喪失の理由にも思い当たれず、今度は途方に暮れた溜息を落とす。
勤め先であろうと見当がついても、けれどそこへ足を向ける気にはどうしてもなれなかった。
(もしかしたら)
ふと、思う。身体中に重く圧し掛かる疲労のせいだろうか。病院勤務の内科医であるのなら、夜勤の帰りだったとか。
(仕事先にトンボ帰りとかしたくないわよね、『深倉理紗子』さん?)
おどけた調子で呟いて、小さく笑う。何故だか分からないものの、妙に心が軽かった。
心が軽いその分、軽い足取りで川のせせらぎと共に歩み始める。道端に見つけた梔子の花の白さやツツジの色鮮やかさに微笑む。
汗ばみ始める頬を、川からの涼しい風が撫でた。風に誘われ、橋を渡る。
(……旧市街)
橋の途に記された案内板によれば、『深倉理紗子』の勤務先がある方角が旧市街、反対方向がシーサイドタウンになるらしい。
橋の真ん中、立ち尽くす。
視線を伸ばす。旧市街は自然豊かな山に抱かれた古い町並みが広がっている。山腹に見える神社が地図に書かれた寝子島神社なのだろう。
反対側を見遣る。こちらは打って変わって現代的な街並みのシーサイドタウン。遠くにはカラフルな大観覧車が見えた。
少し考えて、まずは旧市街に向かうこととする。
古い市庁舎や図書館や消防署を過ぎ、石畳が敷かれ古い商店が立ち並ぶ参道商店街に迷い込む。寝子島神社の長い石段を息を切らして登り、
(体力がないわけではなさそうだけど……余程疲れてるのかしら、『深倉理紗子』さん)
弾む心臓を抑えながら、狛犬ならぬ狛猫に護られた社に参拝する。参道商店街の茶屋で朝食替わりの団子と茶を胃に入れて、次に向かうはシーサイドタウン。
寝子島街道を歩く。忙しなく行き来する車がふと途切れ、束の間、街道に臨む海から聞こえてくる波音に耳を澄ませる。青空を渡る風の音に耳を澄ませる。賑わうシーサイドタウン駅から気まぐれに寝子電に乗り、平日の昼前の空いた電車に揺られ、降りた先は星ヶ丘駅。
閑静な住宅地の中にある駅から出る。瀟洒なお屋敷が立ち並ぶ豊かで美しい街並みを眺め、坂道を登ったり下りたりする。丹精込めて育てられた薔薇が咲き乱れる庭、ゴミひとつなく掃き清められた石畳の道、花水木の街路樹。目に映るもの全てを楽しみ、記憶を失くした女は歩く。
(記憶をなくす前は、)
ふと、考える。
(これらの町でどんな風に過ごしていたんだろう)
足が止まったのは、歩いて歩いた果ての寝子ヶ浜海岸の前。
海水浴にはまだほんの少し早い海岸は、やがて訪れる賑やかさの嵐の前の静けさを保っている。
準備中の札が掛けられた海の家を横目にすぎ、海に至る石段を下りる。踵の低いパンプスに入り込む砂粒が邪魔で、脱いで片手に持つ。
昼下がりの砂浜を少し歩いて、歩いたところで足が止まってしまった。
一歩も進めなくなった足元を見下ろして後、午後の光をきらきらと乱反射させる初夏の海へと視線を逃す。眩しい光に目を射られても、海以外のものは見たくなかった。他のものを見てしまえば、記憶が戻ってしまう気がした。
例えば、どこかに落として来たことにしている、バッグの底のスマートフォンとか。
「ねえ、深倉理紗子さん」
忘れたままでいたい、と思っている自分がいることにいつからか気づいていた。けれどその理由に今の自分では思い至ることができず、だから自分で自分に問いかけてみる。
「……あなた、家族や友達とうまくやっているの?」
好きな人はいるの?
休みの日はどんな風に過ごしているの?
今の仕事は気に入っている?
ねえ、と自分自身に繰り返す。
「あなたは今、幸せなの?」
波音に耳を澄ませる。自分自身の胸の内に耳を澄ませる。もちろん、返事はない。
(できっこない、か)
息を吐こうとして、代わりに小さな笑みが漏れた。
意外なことに、自分が誰か判らないことに不思議と焦りはなかった。
思わずもう一度笑う。それはもしかしたら、『深倉理紗子』が置かれた現状を示すものであるのかもしれなかったけれど、
(……それなら、今は)
自分自身に関する全てを、――家族のことも友達のことも、好きな人が居るか居ないかも、休日の過ごし方も、仕事に関しても。それから、今が幸せであるのかも。己を脅かすものを全て忘れ、空っぽであるがゆえに凪いだ心で、彼女は青い空と海をただいつまでも見つめ続ける。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
阿瀬春
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
定員
10人
参加キャラクター数
10人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2018年08月21日
参加申し込みの期限
2018年08月28日 11時00分
アクション投稿の期限
2018年08月28日 11時00分
参加キャラクター一覧
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