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寝子島高校
三歩、進んで
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黄昏の海が遠くに見えた。
潮の香を含んだ湿った風に緩く頬を撫でられて瞳を細め、何気なく踏み出して、
(あれ?)
瞬く。もう一歩踏み出して、踏み出した足元を見つめる。
(ここはどこ?)
そう思った途端、一歩も動けなくなった。瞬きを忘れた瞳でぐるり、周りを見回す。息を忘れていることに気づいて震える呼吸を繰り返す。
(わたしは、)
――わたしは、だれ?
足元がなくなるような不安に胸を掴まれ、ぎゅっと瞼を閉ざす。閉ざしたままであればそのうちに自分も周りのものもぜんぶ無くなってしまうような恐怖に襲われ、震える瞼を持ち上げる。
周りにあるのは、夏を待ち侘びるような鮮やかな茜色に染め上げられた海辺の町。海のにおいがする方へ視線を投げると、夕暮れの中にさまざまの色を輝かせる大きな観覧車が見えた。
(ど、どうしよう……)
明るい光に誘われるように歩き出そうとして、やめる。どちらに向かえばいいのかも、今の自分には分からない。
波の音が聞こえる道の端で立ち竦んでしまう横を、知らない人たちが通り過ぎていく。素知らぬ顔で家路を急ぐひと、気掛かりそうな視線をちらりと向けるひと。けれど今の自分には、その中に自分を知るひとがいるのかどうかも分からない。
「あの、すみません」
眩暈のように押し寄せる心細さを振り払い、道行く人々のひとりに声を掛けてみる。
「ここは何処でしょうか?」
不思議そうな顔をしながらも、その人はここがシーサイドタウンの街角であることを教えてくれた。
(街道をまっすぐ行けばシーサイドタウン駅、戻れば旧市街、……)
そのひとの言葉を素直に胸の中で繰り返す。ここが何処かは分かった。それなのに、自分が何処へ行けばいいかはわからない。
(どうしよう)
不安に膨れ上がった心臓が耳の奥でどきどきと喚いている。
落ち着かなくては、と意味もなくスカートのポケットを探って見つけた財布にも、身分証のようなものは何一つ入っていなかった。
「っ……」
喉の奥に膨れ上がる嗚咽をぐっと飲み込み、震える膝を一撫でして一歩を踏み出す。本当は不安で不安で、その場に蹲って泣いてしまいたいけれど、
(こらえなきゃ)
自分の足で進まなくては。歩いていかなくては。だってそうすれば、もしかしたら知っている場所に辿りつけるかもしれない。『私』を知っている人に会えるかもしれない。
(がんばって、歩いて行かなくちゃ)
たとえ自分が誰かわからなくても。
自分が誰かわからないだけで、ただそれだけのことで、ひどく足が重い。ともすれば目に涙の膜が張る。
(歩かなきゃ、……)
俯きそうになる顎をぐいとあげようとして、遅かった。足元に革靴が見えたと思った瞬間、顔を誰かの胸にぶつけてしまった。
「す、すみませんっ」
慌てて小さく飛び退き、ぺこりと深く腰を折る。
「いや、こちらこそすまない」
頭ひとつと半分くらいは背の高いその人の声を聞いた途端、不安で固くなっていた頬や身体がふわんと緩むのを感じた。
「……宮祀?」
その人がその名前を口にした途端、自分が誰か分からずに凍り付いたようだった心が熱を帯びるのを感じた。
顔を上げる。背広の胸に、きちんと締めたネクタイ、生真面目に引き結んだ唇に、眼鏡を掛けた鋭い瞳のその人は、どこか気難し気に眉間に縦皺を寄せた。
「何かあったのか」
低く問われ、顔を覗き込まれてから気が付いた。頬を冷たい涙が伝ってしまっている。
ぶつかってしまったときよりも焦って、掌で頬をごしごしと擦る。自分の名前を呼んでくれるこの人を、誰なのかも分からないこの人を、心配させたくなかった。
「だ、大丈夫です、……大丈夫」
繰り返し言って笑って見せる。
「あの、どこかでお会いしましたか?」
笑うと同時、胸に生まれた懐かしさのような苦しさのようなものを持て余す。締め付けられるような苦しさは、これはもしかして、
「……私の、恋人ですか?」
咄嗟に思いついた感情があまりにもしっくりときて、思わずその人を真直ぐに見つめる。驚いたように瞬く眼鏡越しの瞳を見つめれば見つめるほどに胸が高鳴って、だからきっとそうだと信じたかったのに、
「いや、……君は、私が教師を務める高校の生徒だ」
その人は、どこまでも生真面目に言い切った。
「宮祀」
怪訝な声で名を呼ばれ、少しがっかりしながらも、同じくらい少し安心する。
「宮祀、……宮祀」
その人と同じ響きで『自分の』姓を繰り返し口にしてみる。そうするうちに、思い至った。
「
宮祀 智瑜
、……そう、……そうでした」
「大丈夫か? 何かあったのなら、」
「あの、先生は私の家をご存知でしょうかっ」
自分の名前を思い出せた嬉しさに急き込んで訊ねたところで、またひとつ思い出した。目の前のこの人は、
桐島 義弘
先生だ。
(私の、好きなひと)
自分の名前と先生の名前しか思い出せてはいないけれど、それだけでも今は十分な気がした。
「ご存知も何も……時折野菜を買わせてもらっているだろう」
先生の言葉に頷き、自宅の住所を確かめる。
「家まで送ろう」
「だっ、大丈夫です、」
真剣な表情をする先生をこれ以上心配させたくなくて、思い切り首を横に振る。
「有り難うございました!」
大きくお辞儀をひとつして、くるりと踵を返す。教えてもらった道を駆けて、先生の前から逃げ出す。
力いっぱい駆けてから曲がり角の寸前で振り返ってみる。先生はまだこちらを見てくれていた。もう一度お辞儀をして、大きく手を振る。
(大丈夫です、先生)
恋人ではないけれど、大切なひと。そんなひとが『私』にはいる。それを朧気ながらも思い出せたことが嬉しかった。それだけで先に進む勇気が湧いた。
(旧市街、宮祀青果店)
先生から聞いた自宅の住所を胸の内に繰り返す。茜の色が深くなる街に自分の影を長く伸ばして歩く。
夕陽の色に染まる学校を見た。帰路を急ぐ人々を見た。
(宮祀、智瑜)
『自分』の名前を繰り返す。それが『自分』の名前であると言い聞かせる。そうしなければ夕暮れと一緒に『自分』が宵闇に消えてしまいそうに思えた。
「あっ、ちゆ!」
幼い少女の声を耳にして、顔をあげる。知らぬ間に俯いていたことに唇を噛む。
「あら、ほんま。今晩は、智瑜さん」
ぱたぱたと駆け寄って飛びついてくる四、五歳ほどの小さな女の子の身体をお腹のあたりで受け止める。女の子の後を追いかけて来た和服姿の、こちらは中学生ほどの少女に反射的に笑いかける。
「こんばんは」
「どないしたん、元気ない顔して」
黄昏の町を背に微笑みかけてくれる三人に、心の奥がふわり、温かくなった。
(……知ってる)
私は、このひとたちをきっと知っている。
「あの、旧市街は何処にありますか?」
『家』のある場所をとにかく聞こうとして、三人の不思議そうなまなざしを浴びた。
「何処、て……」
あっちやけど、と道を指し示しかけて、男がふと口を噤む。
「智瑜さん」
着物姿の少女にひんやりとした手で手を包まれ、智瑜は思わず目を瞬かせた。
「智瑜さん、」
智瑜に言い聞かせるように少女は繰り返す。そうしてから、自分たちの名を告げる。
「夕さん、こんちゃん、日暮さん、……」
教えられるまま、三人の名を繰り返し、智瑜はそっと目を伏せた。聞かされるまで、知っているはずのこのひとたちの名前も思い出せなかった。
「えっと、……親子ですか? お父さんと二人の娘さん?」
少女に包まれた手をもう片方の手で包み返し、智瑜は目を上げて問う。
困ったように顔を見合わせる夕と日暮に、ふふ、と肩を竦めて笑って見せる。
「冗談です」
名前さえ思い出せなくても、このひとたちと『自分』との関係は分かる、気がする。だってこうして話しているだけで、一緒にいるだけで胸がふわふわと楽しくなる。三人とのやり取りも、三人のやり取りも、覚えている気がする。
(でも、)
だからこそ強く思う。早く、はっきりと思い出したい。
「日暮さん」
「うん」
「記憶喪失って、どうしたら治りますか? 電柱に頭ぶつけるとかですか?」
痛くない方法でお願いします、と今度はあながち冗談でもない表情で口にする智瑜に、日暮はほんの少し悲し気に笑った。ひょいと手を伸ばして来たかと思うと、ごしごしと智瑜の頭を撫でる。
「智瑜さん」
「ちゆ」
夕がぎゅっと肩を抱きしめ、智瑜の額に額を押し付ける。こんが腰にぎゅうっと抱き着く。
「うちへ送ったる。おいで」
日暮が先立って歩き出した。夕とこんが智瑜の左右それぞれの手を繋いでそっと引く。
ひとりで歩くよりも、ずっとずっと心強い夕暮れの道を歩く。近道だという細い路地を抜け、橋を渡り、懐かしい気持ちが胸を満たす商店街を四人で歩いた先に、その店はあった。
古びた看板には、『宮祀青果店』の文字。ちんまりとした木造の、自宅も兼ねたお店の前には、ちょうど出て来ていた店主と奥さんらしいお爺さんとお婆さん。
二人に向けてお辞儀する日暮に倣って頭を下げようとして、智瑜は大きく瞬く。夕とこんがぎゅっと手を握った。握り返そうとして、智瑜は笑う。
「あの店が、」
笑おうとした声が震えた。
「私の家。それに、お祖父さんとお祖母さん」
それでもその言葉を唇に登らせたその瞬間、――何もかもをはっきりと思い出した。手を繋いでいる夕とこんのことも、振り返って安堵の表情を浮かべる日暮のことも、お帰りと手を振る祖父母のことも、自分のことも。それから、道の途で出会った大好きな先生のことも。
何もかも忘れて空っぽだった胸を、温かな思い出が満たして行く。満たして溢れて、あったかい涙になる。
「良かった」
そっと息を吐いて笑う夕に抱きつき、智瑜はぽろぽろと大きな涙の粒を零して泣いた。
「思い出せて良かったです」
「うん、良かった。ほんまに良かった」
抱きしめ返して背中を撫でてくれる夕の手の優しさに、智瑜はまた泣く。
「皆、大切な人なんです」
「うん」
「だから、もう忘れたくないです」
「うん」
智瑜、と夕が名を呼ぶ。おかえり、と言う夕に、こんと日暮に、祖父母に、智瑜は涙に濡れた顔中で笑った。
「ただいま!」
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あとがき
担当マスター:
阿瀬春
ファンレターはマスターページから!
お待たせいたしました。
三歩進んでぜんぶ忘れたシナリオ、お届けさせていただきます。
おかげさまで、とりあたまシナリオも第三弾!
記憶喪失ネタ、やっぱりとても楽しくおいしく書かせて頂きました。ありがとうございましたー!
ご参加くださいまして、読んでくださいまして、ありがとうございました。
わたしは、あなたをあなたらしく描けておりましたでしょうか。
少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。
ありがとうございましたー!
ええと。それから、追記といいますか蛇足といいますか。
今回のとりあたまシナリオをもって、しばらく活動を停止します。
今までたくさんのご愛顧、本当にありがとうございました。またいつか、お会いできましたら嬉しいです。
……あっ、なんだか最後のご挨拶みたくなっちゃってますが、そのうち戻ってきます! いつ、とは言えないのがとても申し訳ないのですが、もしかよろしければ、いつかのそのときにもまた、あなたのお話をお聞かせいただけましたら嬉しいです! ぜひ!
本当にほんとうに、ありがとうございました。色々な感情や風景を楽しく描くことができましたのも、すべてみなさまのお陰です。
それでは、また。
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担当ゲームマスター
阿瀬春
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
定員
10人
参加キャラクター数
10人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2018年08月21日
参加申し込みの期限
2018年08月28日 11時00分
アクション投稿の期限
2018年08月28日 11時00分
参加キャラクター一覧
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