【星幽塔】第一階層　マイ・フェイタル・シャドウ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　マイ・フェイタル・シャドウ

　ステラオルタの一体は愕然としていた。
　あり得ない。
　あるじ様の力が戻って、竜牙兵が強化されたというのに。
　なぜ、なぜ、なぜ、私たちは押されているの！？
「ま、まだ竜牙兵はたくさんいるわ。更に巨大竜牙兵を作り出せば……！」
　空に魔法陣が浮かび上がり、竜牙兵が引き寄せられるように集まってゆく。
「そうよ、これは何かの間違いよ。脆弱なほしびとが、私たち『かげびと』に負けるわけないじゃ……」
　ステラオルタが呟きは、次の瞬間、５発の発砲音に阻まれた。
　そしてステラオルタは仰向けにゆっくりと倒れてゆき、まるで氷が溶けるかの如く、その影ごと日光によって姿を消していった。
　集まった竜牙兵も元に戻って崩れ落ちてゆく。
　忍び寄ったミハイル・ドラグノフのヘッドショットが、ステラオルタの顔の半分を吹き飛ばしたのだ。
「うはは、随分とあっけないな。おかげで此方は仕事が楽だが。さて、他のステラオルタの様子はどうだ？」
　ミハイルがリロードしながら周囲を見渡すと、ちょうどアスワド・クロノワールがステラオルタと交戦中だった。
「おまえが出てきていきなり骨が合体したぞ。あのでっかいのはボクでも危ない……。だからおまえをどうにかしたらいいかもしれないな！」
「そう簡単にやられないわよ。ゆけ、ギガント！」
「オオオオオオ！！」
　巨大竜牙兵、10ｍ頭上から降り下ろされる骨の鉄拳！　しかも連打！！　大地が揺れる！
　だがアスワドは直感と本能で紙一重の神回避！
「ヴォーパルバニーの脚の速さを甘く見るなー！」
　振り下ろされた骨の鉄拳にアスワドに飛び乗ると韋駄天低姿勢猛疾走！
　アスワドを押し潰そうとする巨大な手の平を掻い潜り、アスワドは装備換装！
「これはボクがこの塔にやって来て、初めて鍛冶屋で作った武器だ！　こいつの一撃はすごいぞ！」
　一見すれば黒い革製の腕輪だが、その実は形態変化の魔術が込められている。
　アスワドが腕輪と意思をリンクさせれば、たちまち形状が激変！
　悪魔めいた漆黒の金属製爪刃を持つ革製の篭手を振り上げ、アスワドは跳躍！
「これが！　ボクの剛爪の篭手だぞー！！」
　跳び付いた先は、巨大竜牙兵の首！
　悪魔の爪は、まるでバターめいて容易く食い込むと、竜牙兵の首を一撃で刎ね飛ばした！
「う、うそ！？　何それ、意味分かんないんだけど！？」
　狼狽えるステラオルタ！
　だがアスワドはすぐに踵を返し、ステラオルタへ向かって弾丸めいて地面を蹴る！
「あとはお前だけだ！　これでどうだー！！」
　アスワドが突き出したのは、意外ッ！　それは手刀！！
　その一撃は寸分狂わずステラオルタの頸椎を直撃！
　喰らったステラオルタは昏倒！
「ふー、タケミチからろっこんをコピーしておいてよかったぞ！」
　実はアスワド、開戦前に志波武道のろっこん『スイ・マー』をコピーしていたのだ。
「良し！　こいつは生け捕りだ！　あとは雑魚だけだな！　覚悟しろ！」
　次々とアスワドは嬉々として周囲の竜牙兵の首を刎ね飛ばしてゆく。
　後に、この戦いぶりを見た兵士が戦々恐々と語っていた。
「あの戦場には、兎の耳が生えた『黒い死神（ブラック・リーパー）』が居た」と……。