ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ｜リアクション

ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ

　しばらく歩くと、噂のラーメン屋台はほどなく見つかった。
「お腹すきました……」
　綾辻綾花はよほどこのラーメンを楽しみにしていたのか、滅多に欠かさない間食を抜いていたため、足元が少し怪しい。
「おいおい、しっかりしてくれよ学生さん」
　天利二十は一応綾花を支えてやって、椅子に座らせた。
「やーん、アタシもくらくらするー♪」
　ミッシェル・ナイスゲイもここぞとばかりに天利にしなだれかかった。
「はいはい、わかったわかった」
　綾花を座らせた天利は、ミッシェルをよいしょと抱きとめてやる。
「おっと……悪フザケは夜だけにしといてくれよ……っと」
　そこそこ長身の天利だが、筋肉質のミッシェルが本気でもたれてくると支えきれない。屋台の椅子に綾花と同様に座らせてやると、ふたりの間に自らも座った。
「おっさん、ラーメン３つ」
「あ、私ラーメン代出しますよ、お仕事ですから」
　咄嗟に財布を出そうとした綾花を、天利が軽く止める。
「いや、今日はオフだ。俺に出させてくれ……そういう気分の日もあるのさ」
「でも……」
　言いよどむ綾花を、ミッシェルはチッチッと指を振ってたしなめた。
「あらぁダメよ～？　いいオンナは奢られ上手なのよ～？　ご主人、オススメのラーメンひとつお願いするわ～ん♪」
　そこはさすがに客商売のミッシェルだ。ここで押し問答していても誰も得をしない。それよりはさらっと好意を受け取っておいて後で何らかの返礼を考えた方が、後々まで関係が続くというものだ。
「……そうですか……というかあの……おふたりの関係についてですね……」
　ミッシェルに気圧されがちな綾花だが、思い切って天利とミッシェルの関係について切り出してみる。
　つとめてそっけなく、天利は返した。
「んー。ただの店主と客？」
「あらヒドイ、アタシのお店でお金払ったことないじゃないの～。二十ちゃんだから待ってあげてるのに～」
「その都度払ってるだろ？　体で」
「あらヤダ、あの程度じゃ利息分にしかならないわよ～ん？」
「マジか」
「ちょっと、いま体でって言いました？　いわゆるその男女の？」
　やや混乱を始めた綾花の思考回路を、ふたりのどうでもいい会話がさらに翻弄する。
「果たしてママを相手に男女の関係と言っていいものか？」
「イヤ～ン二十ちゃん、ママなんだから女性に決まってるじゃないの～」
「いや、このママはすでに役職名というか」
「いいオンナだっていつも言ってくれてるじゃな～い」
「そりゃ、ママはいいオンナさ、保証するよ。だがこの場合において正しく男女と言われるとどうなのかと言うと」
「あ、じゃあ証拠見てみる～？」
「いや、それは知ってるから」
　いつまでも続きそうなグダグダとした会話を遮って、三人の前にラーメンがすっと差し出された。
「……」
「ほら学生さん、ラーメン来たぜ」
　まだ何か追求したそうな綾花を遮って、天利が促す。
「んー……お腹もすきましたし……また後で詳しく聞きますからね！」
　割り箸をパキンと割って、綾花は目の前のラーメンにとりかかった。天利は、ミッシェルから割り箸を受け取ると、誰にも聞こえない程度の小声で呟いた。

「何で俺が怒られにゃならんのだ」