ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ｜リアクション

ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ

「本当に……おいしいラーメンですねー……」
　ため息をつきながら、屋敷野梢は呟いた。
「オレのはコレだけどな」
　おどけた表情の天利二十は返す。手元にはインスタントラーメンだが、それでも天利の表情は穏やかだ。
「ふふ……でも、おいしいんでしょー？」
「まあな」
　梢はその天利を横目に、自分のラーメンに集中する。目を瞑ると思い起こされるのは寝子島での数々の思い出……ではない。
「ふふ……私も、懐かしいですー……」
　梢は寝子島に来る以前の街を思い出していた。どことなく異国情緒のある、坂の多い街。そこで食べたラーメンの味がする。あっさりとした、魚介スープの味。
「……」
　天利は何も語らない。
「このラーメンねー……家族でもひとりでも、よく食べに行ったんですよー……」
　梢は続ける。だが、それは天利に向けて発せられた言葉ではないように思えた。

　クラスに馴染めなかったこと。
　そこで親友に出会ったこと。
　喜びや悲しみ。
　嬉しさや挫折。
　そして、いくつかの後悔や別離―ー。

「いわゆる、思い出の味ってやつかい？」
「……そうですね」
　梢はしみじみと頷く。
「まぁ、生きてたらいろいろありますよねー」
「……違いない」
　天利はくっくと笑って、残ったラーメンスープを飲み干した。
「あ、そうだ」
　同じくスープを飲み干した梢の顔は、もういつもの彼女だ。
「私、シーサイドタウンの欧風料理店でバイトしてるんですけど、たまには遊びに来てくださいねー。『Ｍａｈｌｚｅｉｔ』ってお店です！」
「ああ、あそこか」
「知ってます？」
「喰ったことはない。金がない」
　梢はぷっと笑って。
「店主さん、ごちそーさまでしたー！　天利さん、また事件があったら声かけてくださいね！」
「わざわざ学生さんを巻き込むつもりはねぇよ……まぁ考えとく。店の方もな。そのうち寄るよ」
「デートのお誘いでもいいですよ？　奢ってくれるなら！」
　そろそろ終わりが近い。時間も空間もぐちゃぐちゃに入り混じったこの屋台も、閉店の時間だ。

「あー、喰った喰った」
　天利は梢を黙殺して外に出た。いつの間にか雨は止んでいた。
「そういえば買い物の途中でしたー」
　そう言って梢はひらひらと手を振った。
「おう、またな。学生さん」
　天利もまた素直に手を上げる。

　何があったわけではないのだけれど。
　何となく気分がいいな、そんな気持ちで梢は歩き出した。

　その後ろ姿を黙って見送る天利。その視線の先には、青空にかかる一本の虹があった。

＜ＥＮＤ＞

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：まるよし
ファンレターはマスターページから！

　皆様こんばんは、まるよしです。

　今回はなんかラーメン食べよう、ってシナリオでした。復帰一本目ということで軽めの内容を目指しましたが、いかがでしたでしょうか。
　皆様のアクションの結果、屋台やラーメンそのものの謎には迫る必要がなかったので割愛しました。本当に、リアクションというのは皆さんのアクションが作るものだなぁと感心しております。

　さて、またシナリオガイドが完成しましたら、お目にかかりたいと思います。
　今回はありがとうございました。

　またご縁がありましたなら。

↑ページトップに戻る