ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ｜リアクション

ラーメン食べりゃあ虹も出るのさ

　外はさらさら雨模様。

「もう、ずいぶんとお見限りだったじゃな～い？」
　オンナ――ミッシェル・ナイスゲイは不満げに呟いた。
「まあ、そう言うなよ。ちょっと寝子島を離れていたもんでな」
　オトコ――天利二十は返す。出されたグラスに手もつけずに、煙草の火をゆらした。
　ミッシェルの店『ジオフロント』はいわゆるゲイバーである。その日は久しぶりに姿を現した天利を連れ込んで、ここのところ音信不通だった不義理をなじっているところだった。
「そうは言うけど心配したのよ？　もう１年も２年も会ってないみたい」
　天利は肩をすくめる。
「大袈裟だな。ほんのひと月程度だろ」
　むくれるミッシェルを横目に立ち上がる。雨足はさほど強くない、まだ酒を飲むにはずいぶんと早い時間だ――ふと、天利のケータイがピロンと鳴った。
「？」
「ふむ」
　片手で軽く操作すると、それを懐にしまい込む天利。
「そうだな……じゃあ埋め合わせにラーメンでも喰いにいくか？」
「あら、二十ちゃんから誘ってもらえるなんて珍しいじゃな～い？」
　まあ、たまにはな、と天利は煙草の火を灰皿にもみ消して新しい一本を咥えた。火はつけない。

　外はさらさら雨模様。
　いつもと違う、いつもと同じ。
　きっと今日はなんにもない日。
　何も起こらない。何も変わらない。
　それでも、今日は今日だけの日。

　きっと、今日はそういうお話。

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