「――聞いてるよ。やたらと美味いラーメンの噂だろ?」
ラーメン屋のカウンターに、ふたり。
暖かな湯気が立ち昇るドンブリから目を離さずに、ひとりが応えた。
天利 二十(あまり にとお)、旧市街の貸事務所に住み着いている胡散臭い私立探偵だ。
湯気でサングラスが曇るのをものともせずに、割り箸を割る。パキンという小気味のいい音と共に綺麗に割れた。それを見て口の端をくっと吊り上げる天利。
「今日はいいことあるかもしれねぇな」
それがどうやら笑顔であると気付くまでに、数秒を要した。
「どうもそいつは妙に古びた屋台のラーメンだってぇ話だ……まぁ、屋台自体は珍しくもねぇが」
ずるずると細麺をすすりながら、器用に言葉を発する天利。
「しかしこれがとびきりに美味い……が、誰もそのラーメンの中身をしっかりと思い出せねぇらしい」
ずるずるずる。
「残るのは、美味いラーメンを喰ったっていう幸せな記憶だけ、なのさ」
ずるずるずるずる。
それを聞くともなしに、自分の前に置かれたラーメンのドンブリを覗き込んだ。
長かった梅雨もそろそろ終わりを告げようとしている。澄み切ったスープは、爽やかに晴れ渡る夏の空を想起させるのに充分だった。
「いいねぇ学生さんは、夏休みなんてぇモンがあって」
特に何ごとかと呟いたつもりもないが、漏れてしまっていただろうか――来るべき夏への期待感のようなものが。
さほど羨ましがっている様子もない天利。よく考えたら、この男は毎日が日曜日のようなものではないか。
カウンターの箸立てから割り箸を取って軽く指で弾く天利。それを受け取って、礼も言わずに両手で割った。
ぱきん。
乾いた音と共にすっぱりと割れた箸を横目で見る天利の視線に気付いたあなたは、ふと思った。
果たして、自分はうまく笑えているだろうか、と。
みなさんこんにちは、まるよしと申します。
ご無沙汰しておりましたが、本当にしばらくぶりでシナリオを担当することになりました。
今回初めてお会いする方も多いと思いますので、よろしくお願いいたします。
◆屋台のラーメン
今回は、寝子島のどこにでも出没するという謎のラーメン屋台のシナリオです。
特に事件が起こるわけでもなく(たぶん)、騒動が起こるわけでもない(たぶん)、日常系シナリオを予定しています。
その屋台のラーメンは、どこか懐かしく、しかし新しく、とにかく美味く、決して記憶には残らない、そんなラーメンです。
屋台は時間帯や場所に関わらず出没します。
みなさんはその屋台のラーメンを食べて何を思うでしょうか。またそのラーメンは誰と食べたいでしょうか。
そしてそれは、どんなラーメンでしょうか。
恐らくは神魂の影響を受けているであろうそのラーメン、常識では考えられないようなものが出てきてもおかしくありません。
例えば……
・誰も知っている筈がないのに、子供の頃に母親が作ってくれたラーメンと同じ味だ。
・もう潰れてしまったあの店と同じ味がする。
・何が入っているのは想像もつかないほどすごい(ひどい)見た目なのに、何故か美味い。
・食べると何か起こる(忘れていたことを思い出す、突然何かをひらめく、今までなかった感情が湧き出てくる、など)。
ラーメンの仔細に関しましては、皆様のアクションを参照して、ある程度の無茶ブリには応えていきたいと思います。
ですが、後で思い返してみてもラーメンの詳細は思い出せない、というところは共通しています。
友達と夏休みの予定を相談するも良し、部活やテスト勉強の話をするも良しです。当然、社会人PCも自由に参加できます。
PC間の交流にお役立てください。
もちろん、ひとりでラーメンを食べ歩いても楽しいでしょう。
ほんのひととき、不思議な屋台のラーメンを、どうかお楽しみください。
みなさんの平和な、あるいは騒がしい日常を楽しく彩ることができれば幸いです。
◆NPCについて。
私立探偵 天利 二十(あまり にとお)については、マスターページをご参照ください。
シナリオガイドには登場しましたが、何かの事件を追っているわけではありませんので、特にアクションがかからなかった場合は、リアクションには登場しません。
そのほかのNPCは今回リアクションに登場できません、ご了承ください。
◆アクションについての目安。
アクションをかける際、PCの台詞や心情を交えて下さると、キャラクターの雰囲気を掴みやすいです。
そのPCが何をしたいのか、そのために何をするのか、という目的と手段をはっきりさせるとGMとしても行動を取らせやすく、その目的を叶えやすくなります(あくまでも目安、ですが)。
それでは、皆様の楽しいアクションをお待ちしています。よろしくお願いいたします。