【夏至まつり】キャンドルナイトに星も燈りて｜リアクション

【夏至まつり】キャンドルナイトに星も燈りて

●夜の海に燈す願いは（４）

　他にも何か面白いお店とかないかな？　と、言い出したのは藍川慶介だった。
　それをきっかけに、くじ引き等の屋台の方へと向かってひとしきり遊び、
「キャンドル、いろんな色があって、とっても素敵です！」
　と、春姫いちごが言ったみたいに、１年生カルテットは、今は海に流すキャンドルを選んでいる。
　慶介が、いちごの様子を目に、ふわりと笑った。
「蝋燭を海に流すっていうのも、お洒落でいいよね」
「はいっ！　でもでも、どれも素敵だと悩んでしまいます……！」
「いちごちゃん、これはどう？」
　悩むいちごに紗雪幽が示してみせたのは、甘やかな赤色のキャンドルだ。
「いちご色～、なんてね」
「えへへ、嬉しいですっ！　じゃあ、わたしはそれにしますね！　紗雪さんは？」
「俺は……うーん、まだ決まってないや」
「なら、これとかどう？」
　自身は既に緑色のキャンドルを選び取っている島崎嘉織が、別のキャンドルを幽に向ける。
　慶介が、ことりと首を傾けた。
「赤？　あ、でも、いちごちゃんのとはまた雰囲気が違うね」
「紗雪君のピアスの色に似てたから」
「よっし！　俺も決まりー！」
「うわ、あと俺だけだね。どうしようかな……うーん……」
　考えて考えて、じきに「よし、これにしよう」と慶介が選び出したのは青のキャンドル。
　炎を燈せば、さあ、キャンドル流しの準備は万端だ。
　嘉織が、するりと海へキャンドルを逃がす。
　段々と遠ざかっていく緑の光を見つめながら、
「願い事は決めてあるんだ」
　と、慶介は真摯な声音で零した。
「もっと上手くヴァイオリンを弾けるようになれますようにって」
　寝子高の先輩に、すごい人が沢山いるのを慶介は知っている。
　そして勿論、寝子高の外にだって――。
「願い事の話って噂だし、結局は自分の努力次第なんだろうけど……」
　願掛けっていうか、決意表明的な！　と、慶介は少しはにかんだような笑みを友人達へと向けた。
　青い光が、慶介の願いを乗せて旅立っていく。
　いちごが、感激したみたいに、ぐいっ！　と身を乗り出した。
「藍川さん、すごいですっ！　わたしは……」
　少し考えて、いちごは、いちご色のキャンドルをぷか、と夜の海に浮かべる。
「お友達と、楽しい思い出がいっぱい作れますように」
「お、いちごちゃんの願い事もいいじゃん。俺は……そうだなぁ」

「今年も楽しい夏を過ごせますよーに、かな？」
　緑と青を追う、２つの赤。
　気付けば、闇色の海は、数限りないキャンドルに照らし出されていた。
　屈めていた腰を伸ばした幽が、「めちゃくちゃ綺麗だなー」と感嘆の滲む声を漏らす。
「ＳＮＳ映え半端無さそう。そうだ、写メっとこ～」
「あ、皆で写真を取ってもらうのはどうかな？　この海をバックに」
「わああ、いいですね！　わたし、もっともっと、楽しい思い出いっぱい作りたいですっ！」
　願い事、早速叶ってるじゃん、と、幽が笑った。
　その声を耳に、嘉織は、スマートフォンの画像フォルダを開く。
　ナイトマルシェを訪れた時に皆で撮った写真が、嘉織の口元を、小さく綻ばせた。
　急に吹いた潮風が、オーバーサイズのパーカーの裾を、ぶわりと膨らませる。
　パーカーの中にはタンクトップを合わせているし、下はデニムのショートパンツ姿だ。
　だから余計に、今宵の風が、鮮明に感じられた。
「写真、撮ってくださるそうですー！」
　スタッフの姿を見つけてお願いに出向いていたらしいいちごが、駆け足で戻ってくる。
「いちごちゃん、ゆっくりでいいよ！」
　慶介が叫んだのは、嘉織と同じように、彼女がすっ転ぶ未来が見える気がしたからに違いなかった。
　ハイカットのスニーカーで、砂を蹴る嘉織。
　幽も、嘉織と同じく走り出していた。
　何事かと、いちごがびっくりしたように立ち止まる。
　安堵の息を吐いたのは、嘉織だけではなかっただろう。
　息を整えて見上げた夜空には、星が幾らともなく瞬いていた。

　――悪くない夜だ。

　さあ、写真を撮ろう。星とキャンドルが煌めく、この夜の記念に。