【夏至まつり】キャンドルナイトに星も燈りて｜リアクション

【夏至まつり】キャンドルナイトに星も燈りて

●キャンドルナイトへようこそ（１）

　寝子島へと降り立ったヴェルト・レトランジェとメーベル・コルテージュ。
　寝子ヶ浜海岸の傍で足を止めて、ヴェルトは、双眸を好奇心に煌めかせた。
　宝石のような瞳が、ちらちらと揺れるキャンドルの灯りを淡く宿す。
「おやおや、面白そうなことをしているね。メーベル、そうは思わないかい？」
「あれは……どうやら、祭りのようですね」
「何とも興味深いね。是非、参加したいものだ。君もそれでいいだろう？」
「ええ、勿論お供致しますよ」
　応じて、メーベルは既に海岸へ向かって歩き出しているヴェルトの後に続いた。
「それにしても、先生は面白そうな催しに対する嗅覚が鋭いですね」
「その方が、退屈しなくていいだろう？　今回だって、いい思い出になるかもしれない」
　歌うように応じて、海岸へと足を踏み入れるヴェルト。
　キャンドルの炎に柔らかく照らし出された海岸を、メーベルはぐるりと見渡した。
　ほう、と、漏れる細い息。
「寝子島のお祭りは、我々には目新しいものばかりですね」
「そうだね、新鮮な気持ちになるよ。色々と屋台も出ているし、食事にも困らなさそうだ」
　君、今日は作らなくていいよ、と、悪戯めいてヴェルトが笑う。
　その言葉を受けて、メーベルはどうぞご自由にとばかりに軽く肩を竦めてみせた。

　花厳望春は、人の多いところがあまり好きではない。
　故に、お祭りに参加するよりも、さっさと家に帰ってごろごろしたい気分――だったのだが。
「わあ……」
　海岸へと降り立てば、自然、感嘆の息が零れた。
（キャンドルナイト、思ってたより幻想的で綺麗だ）
　それはもう、人混みも気にならなくなるくらいに。
　最初は面倒だと思ってたけど、来て良かったかも、と、スマートフォンを取り出す。
　パシャ、とシャッターを切り、望春は祭りの様子を切り取った。
「へへ、姉さん達に自慢してやろーっと」
　そもそも、望春がここを訪れることになったのは、仕事や講義でナイトマルシェに行けない姉達の為だ。
　姉達の代わりに、美味しそうなものを買って帰るという任務が、望春にはある。
（でも、これくらいはいいよね）
　悪戯めいて胸中に呟き、望春は撮影した１枚を目に、眦をそっと柔らかくした。

　会場に五十嵐尚輝先生の姿を見つけた御巫時子は、ぱあ、とそのかんばせを華やがせた。
「尚輝せんせ……きゃっ！？」
　嬉しさのあまり駆け寄ろうとして、砂に足を取られる。
　バランスを失いかけた身体を支えてくれたのは、当の五十嵐先生だ。
「おっと、ギリギリでしたね。大丈夫ですか？」
「は、はい……」
　それ以上、声が出なかった。
　殆ど、抱き寄せられるような形になっている。
　尤も、その温もりも意外と力強い手も、時子をちゃんと立てるようにしてすぐ、離れてしまったけれど。
「あ、ありがとうございます、尚輝先生……」
「いえ、一応先生なので、これくらいは。それより、何か僕に用事では？」
「はい、あの……お祭り、ご一緒しても良いですか……？」
　構いませんよ、と、五十嵐先生はぽそぽそと言う。
「大して、目的もないんです。ちょっと足が向いただけで」
　どこに行きますか？　と問う五十嵐先生の手を、時子は、勇気を出してきゅっと握った。
　ぴく、と、相手の指が跳ねる。
「その、思ったより人が多いので、逸れないように。……駄目、でしょうか……？」
「いえ……生徒を迷子にしてはいけませんので、人混みを抜けるまでなら」
　それに、こうしていたらさっきみたいなことにはならないでしょう、と付け足されて、
「し、失礼しました……気を付けて歩きます」
　なんて、時子は真っ赤になって俯き、零した。

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