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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
仮のちぎりを いかで結ばん
「あれ。日月先生？」
用務員室には、御剣 刀が出会うつもりでいたその本人、『たちもり動物病院』の若院長、日月 透がいた。細い体に、穏やかな物腰。目の下のくまを見ると体は大丈夫なのかと心配になるが、診察の準備をする手はきびきびと休みなく動いている。白い布の上にはバケツから出たちぎりがいる。そばには放課後の世話に来ていた恵御納 夏朝と、用務員の長南 武治。ちぎりは重たい羽を懸命に上げて、小さいなりに威嚇のポーズをとろうと奮闘していた。
「こんにちは。今日は往診でお邪魔していますよ」
「ちぎりちゃん、痛くないから、がまんしてね。終わったら僕と遊ぼうね」
夏朝は情緒不安定気味の子ガラスにやさしく語りかける。ちぎりは透の手が伸びると首をいやいやと振り始めた。野生動物でなくても、医者を嫌がるのは動物の常のようなものだから、それは問題ではない。見慣れない者が怖いだけなのだろう。パニックになっても爪やくちばしで攻撃してこないのは、おとなしい性格をしている証拠でもある。透は自分の見立てを信じ、翼の下に手を入れた。
「……よしよし。大丈夫。私はあなたを傷つけるつもりはありませんよ」
言葉の意味するところを感じ取ったのか、ちぎりは半分も持ち上がらない、重い翼をだらりと下げる。
「先生。俺も診察を見ていていいですか？ 一年の御剣といいます」
「いいですよ。……ひょっとして御剣君は、この原因について思い当たることが？」
透は声を低くして、武治に聞こえないように問う。
「安心してください。私は神魂にまつわることについて、理解しています」
刀と夏朝はそっとうなずく。
「神魂の影響です。でなければ説明がつかない」
「僕もそう思います。水が止まらないなんておかしいもん」
二人の若きもれいびの意見は、透のものと一致していた。小声で会話をする間にも、透は骨や神経、筋肉に異常がないかを探って行く。一歳に届くか届かないかのハシブトガラス。発育は悪いが、改善されつつある。
「ちょっと歩いてもらいましょう」
左右の翼は水で膨れているせいか不相応に大きく見える。羽毛をひきずってよたよたと幼鳥が歩くと、二本の水跡が続いた。
「体におかしい点はないようです。……翼以外は。御剣君と、そちらの方は何か気づいたことはありませんか？」
透の心には一つの仮説が生まれていたが、それをあえて保留し、この鳥とのつきあいが長いであろう高校生たちに答えを求める。
「僕、恵御納 夏朝です。気づいた点とは違うけど、ちぎりちゃんのお水はろっこんなのかどうかはっきりさせる方法があればなって……」
透の質問に、夏朝は自信なげに小さな声で答える。しかし、次の刀の言葉に、はっとした表情になった。
「俺も実は、恵御納と同じことが気になっていた。先生が言ったように、おかしいのは翼だけなんだ。だから……」
すまん、と一言。刀は子ガラスの体を押さえ中ほどの羽を一枚引き抜く。生身につながる羽を引き抜かれて、幼鳥は一瞬びくりと身を震わせ、鋭く鳴いた。夏朝が小さな悲鳴を上げる。
「先生、抜いたところを診てやってください」
透は刀の言葉を聞く前に動いていた。羽の抜かれた患部を確かめる。ぽつりと開いた穴から出血していた。
「水は出ていますか？」
「いいえ。出ていませんね」
「やっぱりな」
刀が引き抜いた羽毛からは、しばし水が流れ出ていた。だが、その勢いは目に見えて弱くなっている。
「これって、ひょっとして……」
夏朝は目の前で起きていることが何を意味するのかに思い当たる。
「ああ。ちぎりを元に戻してやることができるかもしれない」
刀は背をかがめ、ごめんな、とちぎりの頭をなでてやる。痛かっただろうに、それでもちぎりはおとなしくしていた。夏朝の表情はすっかり明るくなっていた。神魂を解除するには、強い打撃や攻撃を与えるしかないのではないかと、ずっと心配に思っていた。
（この方法なら、ちょっとケガをするだけで、ちぎりちゃんを治してあげられるかも！）
一方、透はちぎりの反応にどこか違和感を感じていた。
（幼い点を考えても、すこしこの子はおかしい。まるで虐待された動物のような反応を見せることがある……）
ちぎりはおとなしくて扱いやすい子だ。みんなにもかわいがられているだろう。自分の違和感がどこから来るものなのか、透は考える。そして、動物としては致命的におかしなことに気がついた。
ちぎりは翼を動かすことをほぼ放棄している。
用務員室には、御剣 刀が出会うつもりでいたその本人、『たちもり動物病院』の若院長、日月 透がいた。細い体に、穏やかな物腰。目の下のくまを見ると体は大丈夫なのかと心配になるが、診察の準備をする手はきびきびと休みなく動いている。白い布の上にはバケツから出たちぎりがいる。そばには放課後の世話に来ていた恵御納 夏朝と、用務員の長南 武治。ちぎりは重たい羽を懸命に上げて、小さいなりに威嚇のポーズをとろうと奮闘していた。
「こんにちは。今日は往診でお邪魔していますよ」
「ちぎりちゃん、痛くないから、がまんしてね。終わったら僕と遊ぼうね」
夏朝は情緒不安定気味の子ガラスにやさしく語りかける。ちぎりは透の手が伸びると首をいやいやと振り始めた。野生動物でなくても、医者を嫌がるのは動物の常のようなものだから、それは問題ではない。見慣れない者が怖いだけなのだろう。パニックになっても爪やくちばしで攻撃してこないのは、おとなしい性格をしている証拠でもある。透は自分の見立てを信じ、翼の下に手を入れた。
「……よしよし。大丈夫。私はあなたを傷つけるつもりはありませんよ」
言葉の意味するところを感じ取ったのか、ちぎりは半分も持ち上がらない、重い翼をだらりと下げる。
「先生。俺も診察を見ていていいですか？ 一年の御剣といいます」
「いいですよ。……ひょっとして御剣君は、この原因について思い当たることが？」
透は声を低くして、武治に聞こえないように問う。
「安心してください。私は神魂にまつわることについて、理解しています」
刀と夏朝はそっとうなずく。
「神魂の影響です。でなければ説明がつかない」
「僕もそう思います。水が止まらないなんておかしいもん」
二人の若きもれいびの意見は、透のものと一致していた。小声で会話をする間にも、透は骨や神経、筋肉に異常がないかを探って行く。一歳に届くか届かないかのハシブトガラス。発育は悪いが、改善されつつある。
「ちょっと歩いてもらいましょう」
左右の翼は水で膨れているせいか不相応に大きく見える。羽毛をひきずってよたよたと幼鳥が歩くと、二本の水跡が続いた。
「体におかしい点はないようです。……翼以外は。御剣君と、そちらの方は何か気づいたことはありませんか？」
透の心には一つの仮説が生まれていたが、それをあえて保留し、この鳥とのつきあいが長いであろう高校生たちに答えを求める。
「僕、恵御納 夏朝です。気づいた点とは違うけど、ちぎりちゃんのお水はろっこんなのかどうかはっきりさせる方法があればなって……」
透の質問に、夏朝は自信なげに小さな声で答える。しかし、次の刀の言葉に、はっとした表情になった。
「俺も実は、恵御納と同じことが気になっていた。先生が言ったように、おかしいのは翼だけなんだ。だから……」
すまん、と一言。刀は子ガラスの体を押さえ中ほどの羽を一枚引き抜く。生身につながる羽を引き抜かれて、幼鳥は一瞬びくりと身を震わせ、鋭く鳴いた。夏朝が小さな悲鳴を上げる。
「先生、抜いたところを診てやってください」
透は刀の言葉を聞く前に動いていた。羽の抜かれた患部を確かめる。ぽつりと開いた穴から出血していた。
「水は出ていますか？」
「いいえ。出ていませんね」
「やっぱりな」
刀が引き抜いた羽毛からは、しばし水が流れ出ていた。だが、その勢いは目に見えて弱くなっている。
「これって、ひょっとして……」
夏朝は目の前で起きていることが何を意味するのかに思い当たる。
「ああ。ちぎりを元に戻してやることができるかもしれない」
刀は背をかがめ、ごめんな、とちぎりの頭をなでてやる。痛かっただろうに、それでもちぎりはおとなしくしていた。夏朝の表情はすっかり明るくなっていた。神魂を解除するには、強い打撃や攻撃を与えるしかないのではないかと、ずっと心配に思っていた。
（この方法なら、ちょっとケガをするだけで、ちぎりちゃんを治してあげられるかも！）
一方、透はちぎりの反応にどこか違和感を感じていた。
（幼い点を考えても、すこしこの子はおかしい。まるで虐待された動物のような反応を見せることがある……）
ちぎりはおとなしくて扱いやすい子だ。みんなにもかわいがられているだろう。自分の違和感がどこから来るものなのか、透は考える。そして、動物としては致命的におかしなことに気がついた。
ちぎりは翼を動かすことをほぼ放棄している。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2013年07月25日
- 参加申し込みの期限
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- 2013年08月01日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2013年08月01日 11時00分
