海の家『みなとねこ』の一日　《夏の準備編》｜リアクション

海の家『みなとねこ』の一日　《夏の準備編》

　磨き上げた小上がりの床には青々としたゴザに糊のパリッときいた洗い立てのカバーを掛けた座布団に長机、蚊取り線香を置いた縁側の先の軒先には涼し気に鳴る風鈴に、団扇や造花を飾った簾。自動販売機の脇にはビニール製のかわいい猫とおばけの風船人形。
　厨房前のカウンターには試作と試食を経たとっておきの食べ物飲み物のメニューが堂々と張り出されている。
　落書きだらけだった壁は白く塗り替えられ、屋根は新しいトタンに張り替えられ、錆びだらけだった看板は引っ繰り返ってじゃれる猫の絵が描かれた新しいものとなっている。
「お手伝い終わったのだわー！」
　新しく生まれ変わった海の家『みなとねこ』の店先に立ち、夕方の海風を全身に浴び、珊瑚は明るい声で宣言する。
「お疲れさんでした」
　縁側にぼうっと座っていた日暮がのんびりと笑った。
「そういえば営業が始まったら人手とか足りるのかしら？」
「あー、……どうやろ、まあどないかするしかないんやけど」
　どこかお気楽な調子で苦笑いする日暮と向き合い、珊瑚は鮮やかな夏の海のように笑う。
「私、海がとっても好きで、夏は頻繁に遊びに来るのだわ！」
　だから、と続ける。
「迷惑じゃなければまたお手伝いさせて欲しいのだわ！」
「ほんまか？　そらありがたい」
「ほんとなのだわ！」
　砂の上でぴょんぴょん跳ねる珊瑚と、安堵じみた笑みを浮かべる日暮の傍、温泉からあがってぽかぽかの身体の夏朝がぱたぱたと近づく。縁側にちょこんと腰掛け、はい、と小さく挙手してみせる。
「バイト募集するなら、僕も応募するよ」
　元々、短期バイトは常から探していた。寮で秘密裏に同居している猫のためにも、お金は出来るだけ貯めておきたい。
　それに、と見回す夏朝の視界に映るのは、風呂場から駆けだしてきて一目散に浜辺へと飛び出す三毛猫に、食べるもの寄越せとカウンターの下でにゃあにゃあ訴えるハチワレ猫に、小上がりのあちこちを飾るトロピカルな造花にじゃれつくサバ猫。ゴザの上で長々と身体を伸ばして寝そべる黒猫の横では、風呂上がりのこんが留守番中の飼猫の珠にどうぞともらったお土産の猫缶を抱きかかえてお昼寝をしていたりもする。
　海の家で我が物顔にのさばる猫たちを眺め、夏朝は顔を綻ばせる。
「猫さんも来る海の家なら喜んで！」
「おおきに。そのときは頼みます」
　ぺこりと頭を下げる日暮の隣、冷茶の椀を乗せた盆を手に智瑜が並んで座った。
「お客さん、たくさん来てくれるといいですね」
「せやねえ、やったらええなあ」
　準備を終えた海の家に、智瑜は携帯電話のカメラを向ける。猫たちと一緒に海の家を写し、ねこったーに写真付きで投稿する。

『温泉つき海の家『みなとねこ』、七月上旬オープンです！
　みなさまお揃いでぜひどうぞ！

　#海の家
　#ねこじま
　#拡散希望』

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あとがき

担当マスター：阿瀬春
ファンレターはマスターページから！

お待たせいたしました。
海の家『みなとねこ』の準備編、お届けに上がりましたー！

みなさまにお助けいただきまして、『みなとねこ』は無事開店の運びとなりました。ありがとうございます！
お手伝いいただきましたみなさまには、お約束通りひと夏中『みなとねこ』の温泉入り放題の権利をどうぞー！
ときどき猫がひとっ風呂浴びていたりするかもしれませんが、そこのところもお楽しみ頂けましたら。

それにしても楽しかった！　夏の準備はたーのしーですねえ！　もちろん、夏本番も楽しみですが、準備は準備であんまり楽しいのでついつい延々書き続けたくなってしまったりもしたのでした。ですが、今回はここまで、です。少しでも、お楽しみ頂けましたら幸いです。

ご参加くださいまして、お読みくださいましてありがとうございました。
またいつか、お会いできましたら嬉しいです。そのときは、またどうぞよろしくお願いいたします。
ではではっ、ありがとうございましたー！

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