寝子島駅を過ぎて寝子島街道を渡る。
夕暮れの防風林の中を通る砂まみれの小路の先にある砂浜の一角、下手をすればお化け屋敷にも見えかねない、最早廃屋と化した元海の家がある。
破れたトタン屋根に落書きだらけの壁、凹んだシャッターには風雨に晒され擦れて消えかけた『海の家 みなとねこ』の文字、使えるかどうかも分からない古い自動販売機。
茜の色に染まる錆びて破れたシャッターの隙間、廃屋の中に人影を見たような気がした。
真夏も間近の湿気た空気をかき分ける。砂を踏み、長らく営業していないと思しき海の家の内をそっと覗き込もうとして、――内側からこちらを覗き返す、黒い眼と目が合った。
驚いて声を上げる。途端、向こう側から申し訳なさそうな声がした。
「あ、すまんかった、驚かせてしもた」
ガタガタとシャッターの脇の勝手口が開き、中から黒髪黒目、中肉中背の凡庸な容姿の男が姿を現す。
「前にこの店やっとった主になぁ、この店再開してくれへんかー、て言われてなぁ」
特徴と言えば狐の尻尾のような束ねた黒髪ばかりの、日暮と名乗った男に心底困った顔つきで手招きされ、勝手口から家屋内を窺ってみる。
割れた窓や曇り硝子の外側から流れ込む夕陽と、海の家の新しい主らしい男が掲げる懐中電灯に照らし出されるのは、土間を挟んだ厨房と、畳敷きの小上がり、それから奥には海水客用の更衣室やシャワー室に至るらしい扉。
「せやけどわし、海の家て何したらええかわからへんでな、ちっと往生しとったん。ねこ温泉郷から温泉も引けるて話やし、温泉宿みたいにしたらええんやろか」
なあ、と大真面目な顔で問われ、少し困る。はたして海の家とはそういうものだったか。加えて『ねこ温泉郷』とは何だろう。
「あれや、猫による猫のための温泉。たまに道繋がるんやけどな、そないそない行くもんやないで。
猫の温泉客の下僕にされてこき使われるだけやし」
難しい顔で言ってから、そんなことより、と日暮は両手を合わせて懇願の姿勢をとる。
「すまんけど、海の家て何したらええか教えてくれへん? いや、今やのうて構へんねん、海開きまでまだ間ァあるしな。それまでに掃除したり修理したりせなならんし」
そら開店準備手伝うてくれたらほんま助かるけど、と頭を掻いて、日暮は少し考え込んだ。
「手伝てくれるんやったら謝礼も考えなな。ここの持ち主のねこ温泉の番頭はんに掛け合うて、……せやなあ、今年の夏はこの奥にある温泉使用無料とかどうやろ? 小舟に湯張れるようになっとってな、風情あるで。ようけ猫も泳ぐし」
こんにちは。阿瀬 春と申します。
今日は、海の家なシナリオのお誘いにあがりました。
とは言え、今回は準備編。海の家がなんたるかも知らない海の家の雇われ店主に、海の家のことを教えてあげてください。ついでに廃屋状態なお店もあなたのセンスでぴかぴかに、お客さんがたくさん来てくれる感じにしてあげてください。
そもそも海の家が何なのかを教えてみたり、
ぼろぼろな建物の修繕や掃除をしてみたり、
店の裏手にあるシャワー室や小舟型の湯舟(空っぽの湯舟はたくさんの猫で半ば埋まっているのでまず猫を出さなくてはなりません)の掃除をしてみたり、ついでに水着で温泉入ってみたり、
海の家で出す飲食物の考案試作して、ついでに試食してみたり、
いいカンジに店を飾り付けてみたり、――そんな感じに、夏を前にみんなで遊んでみませんかー、みんなでわいわいしませんかー、なお気軽シリナオです。
※以前書かせて頂いた『ねこ温泉郷』の名前が出てきていますが、今回のお話との関係は薄いです。ので、読まなくても全然大丈夫ですー。
海の家に関わるきっかけは、「短文投稿SNS『ねこったー』で手伝い募集の呟きを見た」とか「なんとなく通りがかってみたら海の家の周りに居た怪しい人物に店内に引きずり込まれた」とか、でしょうか。適当でおっけーです。
登場するNPCは三人。アクションによっては登場しなかったりします。
◇日暮
最近寝子島のシーサイドタウンに住み着いた二十代半ばの男。
寝子島に起こるフツウな出来事を楽しみつつ、普通の生活を楽しんでいる様子。言われた仕事はするものの、何も言われなければひたすら掃除したり壊れた壁の修繕をしたりしている。
◇夕
日暮と共にシーサイドタウンに暮らす十代前半の少女。あどけない姿とは反対に、大人びた表情や仕草をたまに見せる。水着に興味があるらしく、機会があれば着てみたいと思っている。日中は海の家の周りでこんと遊んでいる。
◇こん
日暮と夕と共に暮らす四歳ほどの幼女の姿した座敷童らしきもの。最近になって初めて触れたスマホの『ねこったー』で海の家『みなとねこ』の再建お手伝いをしてくれるひとを探す呼びかけをしている。
ではではっ、今は廃屋同然な海の家の中でみなさまのご参加、正座してお待ちしておりますー! どなたさまも、お気軽にどうぞー!