緑の戦場、バードロイヤル！｜リアクション

緑の戦場、バードロイヤル！

　広大な草原に重々しい打撃音が響く。瞬く間に悲鳴が上がった。怒号が飛び交う中、屈強な青年が正面から掴みに掛かる。
「慌てなくてもいいのよ」
　尾鎌蛇那伊は微笑み、大気を穿つ前蹴りで迎撃した。受けた相手は前屈みとなった。こめかみに血管が浮き出た状態で足を抱え込んだ。
「ど、どうだ」
「仕方ないわね」
　蛇那伊は片足で跳んだ。宙で身体を捻り、相手の首筋に強烈な回し蹴りを叩き込む。衝撃は全身に及び、激しく震えた。両腕がだらりと下がり、緑の大地に顔面を打ち付けた。
「次は誰かしら」
　蛇那伊の笑みが深くなる。目が合った者達は身構えた姿で固まった。
「そこのおじさまはいかが？　相手になるわよ」
　足早で歩いていた恵御納久隆が足を止める。両者の目が合った。
「そのつもりはない」
「勿体ないわね」
「どういう意味だ？」
　久隆は抑えた声で返す。
「背広を着ていても私にはわかるわ。質の良い筋肉ね。耳の形から考えて……柔道経験者　ね」
「戦うつもりはない」
「意志は固そうね。仕方ないわ」
　蛇那伊は周囲の者達を見回し、大袈裟な溜息を吐いた。
「小物で我慢するわ」
「舐めやがって！」
「叩き潰してやる！」
　殺気立った者達が声を荒げた。蛇那伊を囲む輪が徐々に縮まる。
　大気が震えた。全員が一方に目を凝らす。灰色の軍用車が唸りを上げて迫ってきた。
　開いた窓から銃身が突き出された。
　蛇那伊の判断は早かった。軍用車の窓が閉まった側へと走る。立ち塞がる一人は拳の一撃で吹き飛ばす。少し遅れて久隆が腹這いとなった。
　反応が遅れた者達はサブマシンガンの凶弾に倒れた。足を引き摺るようにして逃げる者は軍用車が容赦なく撥ね飛ばす。
「物足りないわ。世界を赤に染め上げるには」
　葉利沢倫理子は邪悪な笑みでハンドルを切った。ろっこんで入れ代わった人格、Maliceは惨劇を求める。エンジンを吹かし、瞬く間に遠ざかっていった。
　生き残った蛇那伊と久隆は目を交わし、別々の方向に歩き出した。