緑の戦場、バードロイヤル！｜リアクション

緑の戦場、バードロイヤル！

　ティオレ・ユリウェイスは暗闇に身を潜める。息を整えることに専念した。
　足音が近づいてきた。右手から聞こえる。間近で立ち止まった。舌打ちの直後、左手に歩いていった。
　用心の為に耳を澄ます。ティオレは全身に被せていた板塀を両手で押しやった。立ち上がると空に向かって大きく伸びをした。
「怯えた少女の姿にすっかり騙されたわ」
　腕の調子を確かめるように交互に回す。頭の上で羽ばたきが起こった。
「相手の目を見て吹き飛ばす、面妖な能力であった」
「今日の武運も当てになりそうにないわね。二本のナイフを失ったし」
「では、どうするつもりだ」
　ティオレは口を歪める。刺々しい笑みを作った。
「少女のアレは噂のロッコンよね。私の奥の手、星の力（虹）で奪い取ってやるわ」
　開いた掌を握り締める。ティオレは右手に一歩を踏み出した。
「獲物は左ではないのか」
「奪い易い相手にするわ」
　断末魔の叫びを耳にした。ティオレは見当を付けた方向に疾走する。倒壊した建物を駆け上がり、剥き出しの鉄心を躱して滑り降りた。
　数メートル先に血溜まりが見える。その中に二人の男性が俯せに倒れていた。
　ティオレは血を踏まないようにして素早く通り抜ける。
　微かな音を耳が拾い、瞬時に真横に跳んだ。着地すると首に手を当てた。
「危なかったわ」
　掌には微かに血が付着していた。
　コンバットナイフを手にした朝鳥さゆるが無表情で距離を詰める。ティオレは滑るように立ち向かう。
　二人はお互いの間合いに踏み入った。さゆるは覇気のない目でコンバットナイフを胸元に構え、鋭い突きを放つ。首に触れる寸前で躱し、ティオレは相手の手首に触れようとした。
　瞬間、さゆるは手を引っ込めた。
「先読みかしら」
「お好きなように」
　さゆるは前に出ようとした。
　ティオレは後方に大きく跳んだ。着地と同時に背を向ける。
「出直すわ」
　軽く手を挙げて全力の逃亡に移行した。