異世界クリエイター、始めました｜リアクション

異世界クリエイター、始めました

●世界樹と生きる民《アーシアン》

　声――《管理人》の言葉を咀嚼して、八神修は見えない相手へと声を投げた。
「貴方は、何者なんだ？」
　純粋な知的好奇心、そして己の役割の為に、修は問う。
　声は、迷うことなく応じた。
『私は、存続の危うい世界を救うプランを提案・実行する者です』
「この世界との関係は？　今まで、どう世界と関わってきた？」
『世界を救う為、この世界のデータは保持していますが、それだけです』
　関わりも、以前よりあったわけではないらしい。
「じゃあ、貴方がこれからどうしたいかというのは……」
『ございません。この世界を救世主の皆さまに託したことで、私の仕事は、殆ど完結しています』
　ふむ、と修は唸り、「なら、俺は世界樹の元へ向かうよ」と、宙へ向かって声を放った。

　金のタネを一粒使い、修は、世界樹を見上げる。
『世界樹、金のタネを生み出して、この機会を俺達に与えてくれて有難う』
　力が弱まっていたのなら、金のタネを作り出すのは負担になっただろう、と修は案じる。
（それに報いる為にも、この世界をよく知った上で、タネを使いたい）
　不自然な変化は、歪みと無理を生むだろうから、と。
　そんな強い想いを胸に、世界樹に言葉を伝える修。
『貴方はこの世界に、どんな種（しゅ）を生み出してほしい？』
『それは、貴方達が決めることです。私は全て受け止め、新しい生命を歓迎します』
『成る程……なら、代償となった大多数の植物は、自然に回復するか、わかるだろうか』
『長い長い時間がかかりますが、この世界の新たな在り方に順応できるなら、恐らくは』
　世界樹の返事を受けて『重ねてになるけど、有難う』と修は微笑する。
　ならば修には、創造したい種（しゅ）があった。
　金のタネを手に、願う。
　生まれたのは、修の膝くらいまでの体長の、妖精や小人を思わせる愛らしい種族だ。
　修を見上げる彼らの、エルフを想起させる長い耳。
　それが、ぴこぴこと動いた。
「初めまして、救世主様。我々を生み出してくださってありがとうございます」
　修が創造したのは、自然と共生し、世界樹と心を通わせる、高い知性を有する種（しゅ）。
　彼らへと、修は柔らかく笑みかけた。
「君達は、世界樹の声を聞ける。世界樹の負担を、少しでも軽減してあげてほしい」
「はい、承知しました」
「ありがとう。どうか、この世界の力になってくれ……《アーシアン》」
　修の頼みに彼ら――《アーシアン》達は、厳かな誓いのように頷く。
　その頼もしさに、口元が、勝手に淡く緩んだ。

「この世界が生命に満ちた優しい世界になる事を、俺は心から願っているよ」
　修の言葉に、《アーシアン》達が歓声を上げる。
　面映ゆさに小さく頬を掻いた修へと、世界樹が言った。
『有難う。私の役目の多くは私のものですが、共に歩める友、話し相手ができたことを嬉しく思います』
『良かった。この世界の向かう先が、楽しみだよ』
　テレパシーでそう伝えて、修は、世界樹の立派な幹をそっと撫でるのだった。