異世界クリエイター、始めました｜リアクション

異世界クリエイター、始めました

●《まんちにゃん》と小さな集落の始まり

　《管理人》の声を聞いた恵御納夏朝は、手のひらの中の金のタネを目に、
（あの烏はもういないし、この世界に恨みもない……）
　と、考える。そうして夏朝は、真摯な面持ちで顔を上げた。
「異世界再生……手伝うよ」
　ありがとうございます、と、《管理人》が応じる。
　金のタネがきらりと光るのに、夏朝は「うーん」と頭を捻った。
（……そうだ。金のタネを写生したら、この世界の皆に話を聞いてみよう）
　かくして、夏朝は救世主としての一歩を踏み出したのだった。

　そして、暫くの後。
「にゃ！　にゃ！」
「救世主様、僕達を生み出してくれてありがとうなのにゃ！」
　既存の種（しゅ）の話を聞き、考えに考えて。
　夏朝が生み出した二足歩行の猫達は、揃ってぺこりと頭を下げた。
　円らな瞳で自分を見つめる猫達の姿に、思わず胸キュンする夏朝へと、
「救世主様、僕達の種（しゅ）に、名前を付けてほしいのにゃ！」
　と、一歩前に歩み出た、茶トラの猫が言う。
　ハッとなって、夏朝はふるふると首を横に振ると、猫達に向かって声を張った。
「君達の種族名は、《まんちにゃん》！」
「にゃ！　僕達は《まんちにゃん》にゃ！」
　わーっと、《まんちにゃん》達から歓声が上がる。
　その様子に目元を綻ばせながら、夏朝は、既存の種（しゅ）達の言葉を思い出した。
　――増えるなら、俺達を襲わないのがいいな。
　――私達、消えちゃいたくないものね。
　だから、《まんちにゃん》達は、少し気紛れではあるけれど、温厚で、のんびり優しい。
　それに、雑食ながら、基本的には、果実を食べて生きるのだ。
「救世主様、救世主様！」
「何かな？　どうしたの？」
「僕達、お腹がペコペコにゃー……」
　途端、くるくるきゅうきゅうと、《まんちにゃん》達の腹の虫が大合唱。
　夏朝は慌てて、もう一粒の金のタネに念じた。
（《まんちにゃん》達が食べる果実……を、実らせる果樹を！）
　芽が生えるや、それは途端にすくすくと育ち始め、立派な幹からはしなやかな枝が差し伸べられる。
　枝の途中からは丈夫な蔓が伸び、その枝や蔓には、柔らかな葉が緑を煌めかせ、そして、
「果物にゃ！　美味しそうなのにゃ！」
　ふっくらと実るは、林檎に似た、色とりどりの瑞々しい果実。
「柔らかくて甘いにゃー」
「シャリシャリして酸っぱくて、癖になるのにゃ！」
　どうやら、果実は、色によって食感や味が違うらしい。
　手を伸ばして果実をもぎもぎ、にゃあにゃあとはしゃぐ《まんちにゃん》達へと、
「これは、《鋼玉の果樹》。葉と果実には、解毒作用もあるんだよ」
　と、夏朝は柔らかく告げた。
「皆は毒素に少し耐性があるし、ちょっぴり癒しの力も持ってるけど……」
　それでも毒を受けちゃった時の為に覚えておいてね、との夏朝の言葉に、《まんちにゃん》達は首を傾げる。
「毒を出す、悪い奴がいるのにゃ？」
「悪い奴、ではないかも。この世界の者同士、無暗には傷付け合わずに生きていってほしいなって思う」
　わかったにゃ！　と、元気良くお返事する《まんちにゃん》達。
　そんな《まんちにゃん》達へと、夏朝は一つ頷いてみせた。
「戦うのは、守る為に。ね？」
「「「戦うのは、守る為に！　にゃ！」」」
　夏朝の言葉を、元気いっぱい、《まんちにゃん》達が復唱する。
　あ！　と、光るような声が辺りに響いたのは、その時だ。
「樹の高い高い所に、ぴかぴかの実が実ってるのにゃ！」
「わ、本当だ。金色、銀色、虹色にも見える……綺麗だね」
「にゃー、でも、あんなに高いと届かないにゃ。こういう時は、どうするにゃ？」
「えっと……道具を使う、とか」
「どうぐ？」
　不思議そうな顔をする《まんちにゃん》達。
　夏朝が道具とはどんなものかを説明すれば、《まんちにゃん》達はすぐに得心する。
「なら、道具を作る場所が必要にゃ！」
「僕達の居場所にゃ！　住処を作るにゃ！」
「《鋼玉の果樹》が多い場所の近くにするにゃ！」
　とんとん拍子に話は進み、《まんちにゃん》達は早速、自分達の縄張りを定めた。
（これから時間をかけて、皆で、自分達の集落を育てていくんだね）
　見守っていた夏朝の唇を、そっと安堵の息が揺らす。
　そんな夏朝の足を、《まんちにゃん》の１匹が、肉球でふにふにと叩いた。
「救世主様、どうしたのにゃ？」
　愛くるしく尋ねる《まんちにゃん》へと、夏朝は優しい眼差しを向ける。
「何でもないよ。ねえ、ここの名前だけど……」

「《まんちにゃんらんど》とか、どうかな？」

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