ふと気が付くと、
志波 甲斐斗は、重苦しい鈍色の空の下に立っていた。
足元の大地は、殆ど枯れている。
僅かに生えた草、転がる黒っぽい石、顔を上げれば、疎らに見える無骨な岩々……。
「ここは、一体……」
甲斐斗が呟くその近くで、同じく気付けばこの場所にいた
大天使 天吏は、目を細め遠くを見遣る。
天を突くような巨大な樹が、灰の双眸に映った。
(ああ、ここは――)
この世界は、天吏が愛するカラスの神――クローネがかつていた世界だ。
この世界を、天吏を含む一部のもれいびやひと達は、訪れたことがある。
その頃クローネは、
とあるもれいびのろっこんを暴走させて、この世界を自分好みに見せかけていた。
しかし、暴走の制御が効かなくなったその末に、彼女はこの世界をあるがままの姿に戻すことになったのだ。
それにしても、一体、どうして自分が再びここに?
『お待ちしておりました、この世界の救世主の皆さま』
不意に、辺りに声が響いた。
不思議な声だ。
低い声、高い声、幼い声、若い声、老成された声……。
想像し得るありとあらゆる声が、一度に、寸分も乱れることなく同じ台詞を発したような。
「救世主、ですか?」
甲斐斗の言葉に、姿の見えない声の主は、頷く代わりに音を紡いだ。
『そうです。どうか、主を失ったこの世界に、新たな命を、そして新たな在り方を与えてください』
ぽう、と手のひらに柔らかい温もりが落ちる。
その温度は、間もなくして、燦然と金色に輝く2粒のタネの形を取った。
『それは、この世界に新たな生命を生み出すタネです。あなた方の思うままに、お使いください』
それから、と、声が付け足す。
救世主達に、この世界の殆ど全ての生命や物質と会話ができる能力も授ける、と。
「それは……生き物だけではなく、例えば土や石とも会話ができるようになるということでしょうか」
『はい、その通りです。例外は、ここからも臨める巨大な樹・世界樹など、本当にごく一部だけです』
その世界樹などとも、タネの使い方を変えれば会話が可能なのだとか。
「成る程……興味深いですね」
一方天吏は、甲斐斗と謎の声の会話を耳に、タネを、痛いほどぎゅうと握り締める。
(この世界で、このタネを手に、私は……)
世界を変えるタネを固く握る天吏の耳に、声が、自分は《管理人》だと名乗る声が聞こえた。
お世話になっております、巴めろと申します。
このページを開いてくださってありがとうございます!
シナリオ『それいけ蚤の市! ~欲しい物は何ですか?~』より、
大天使 天吏さんと志波 甲斐斗さんの願い事をシナリオ化させていただきました。
天吏さん、甲斐斗さん、ガイドへの登場誠にありがとうございました!
なお、もしこのシナリオにご参加いただける場合ですが、
ガイドは一例ですのでご自由にアクションをかけてくださいませ。
以下、本シナリオの詳細な説明になります。
このシナリオの概要
とある異世界へと、《管理人》を名乗る存在によって召喚されたPC様達。
《管理人》曰く、主人を失った世界の行く末を、PC様達に託したいのだそうです。
管理人に預けられた2粒の《金のタネ》と、同じく《管理人》に委託された異世界の住人と会話できる能力を用いて、
主を失くした世界に、新しい息吹を与えてやってくださいませ。
金のタネを使うと、世界にひとつ、新しい生命の種(しゅ)を生み出すことができます。
なお、極端な例ですが、「世界最強」のようなチートすぎる生き物の創造など、
あまりにも他の生命に影響を与え過ぎると判断されるタネの使用は、調整の対象となります。
また、タネを消費することで、既存の生命・物質の見た目を変化させることも可能です。
ただしその場合、変わるのは見た目だけです。性質を変化させることはできません。
タネは、手に持って強く念じることで使用することができます。
また、PC様はこのシナリオにおいて、生き物、植物、土や石ころまで、
異世界に存在する殆ど全ての生命や物質(新しく生み出されるものを含む)と会話ができます。
例外として、後述の世界樹と『世界を結ぶ扉』とはそのままでは会話ができませんが、
タネを1粒消費すれば、任意のいずれかとのテレパシーでの会話が可能になります。
テレパシーでの会話は、同じ相手との会話のためにタネを消費した者同士にしか聞き取れません。
なお、この異世界は当方が担当させていただいたシリーズシナリオに登場したものですが、
現在の世界の状態や存在している主な生命等は以下に纏めてありますので、
該当のシナリオ達をご参照いただく必要はございません。
PC様方に倒されたらっかみ・クローネに関連する情報もマスコメに記載がありますが、
その箇所は、興味がなければ読み飛ばしていただいて差し支えのない内容のシナリオです。
どうかご自由に、世界の創造をお楽しみいただけましたら幸いでございます。
・タネを使って生き物を生み出して、異世界をいい感じにできるよう頑張るぞ!
・好みの生き物を生み出して、お喋り&楽しく過ごす!
・この世界に元々いる生き物や物質達の話が聞いてみたいな。
・(興味がある方は)クローネについて、何か情報を得られないか動いてみるか……。
等々、アクションでやれることは多数です。
やりたいことに、めいっぱいチャレンジしていただければ! と!
異世界について
かつては、多くのPC様方と敵対していたらっかみ・クローネの世界でしたが、
クローネがPC様方に倒されたことで、今は主を失っている世界です。
世界に命を育む役割を担う世界樹も力を失った状態でしたが、
世界を維持するための自浄作用によって、存在していた大多数の植物が消える代わりに、
それらのエネルギーを得て、世界の要となる世界樹が完全に蘇ったばかり。
世界樹が、世界の運営を一旦《管理人》に委託し、
その《管理人》が、世界を再生する救世主として選んだのがPC様達となります。
異世界で出会えるもの達について
○《管理人》
世界の再生のためにPC様達を召喚した不思議な存在。
存続の危うい世界を救うために策を練り、そのプランを実行するのが仕事です。
姿は見えず声だけが聞こえ、呼べば、世界のどこにいても反応します。
クローネ派ではありませんが、彼女に与する可能性のある行動も止めない中立の立場。
○世界樹
濁った紫色に緑の縞模様という毒々しい色合いの睡蓮に似た花を咲かせる、くすんだ色味の巨大な樹。
かつてこの世界がクローネのものだった時にPC様方に倒されましたが、
創造を司り、世界に命を育む役割を持つため、世界の自浄作用で復活しました。
PC様方が《管理人》に渡された金のタネを生み出したのもこの樹です。
世界の主だったクローネに少なからぬ思い入れがあるようですが、
PC様方への敵意や害意は持たず、世界の救世主として歓迎しています。
なお、金のタネを1粒消費することで、世界樹の見た目にも、多少なら手を加えることができます。
他の生命・物質に対するのと同じようにはコンタクトをはかることはできませんが、
金のタネを1粒消費することで、テレパシーでの会話が可能になります。
話したくないこと、等もあるようですが、基本的には、PC様方に協力的です。
○『世界を結ぶ扉』
荒れた世界にぽつんと位置する、謎の扉。
かつてクローネが使っていたものですが、今は反応しません。
他の生命・物質に対するのと同じようにはコンタクトをはかることはできませんが、
金のタネを1粒消費することで、テレパシーでの会話が可能になります。
但し、かなり無口で気難しい様子。
情報を引き出すのは、かなり難易度が高くなっております。
○荒れ地
陰鬱な鈍色の空の下に広がる、渇いた大地。
申し訳程度に枯れたような色の草が生えていて、黒っぽい小石が転がり、
ところどころに、ごつごつとした無骨で大きな岩々が鎮座しています。
かつては、この世界にも森などがありましたが、
世界樹の復活に多大なエネルギーを消費したので、今は荒れ地がどこまでも広がるばかりです。
○毒の小川
荒れ地の端の方を延々と流れる、毒々しい紫色の小川。
口にすると、程度は喉を通してしまった量によりますが、意識を朦朧とさせてしまう危険な毒です。
致死性こそありませんが、大量に摂取するとそのまま意識を失ってしまいます。
後述の毛虫やコウモリは、この毒に耐性があるようです。
○毛虫
ちくちくした棘に覆われた、毒々しい色合いの毛虫。ハムスターくらいの大きさがあります。
触れると一時的に身体のどこかがランダムで麻痺して行動に支障をきたしますが、
積極的にこちらを狙ってくることはありません。
荒れ地の草を食べて生きています。
クローネの世界では、真っ白の毛玉のような姿に見せかけられていたとか。
○吸血コウモリ
空をふわふわと飛ぶコウモリ。意外と可愛い顔ですが、色はやっぱり毒々しいです。
割と凶暴で、彼らに噛みつかれると傷口がズキズキと痛むだけでなく、
噛まれてから長くて数分ほど、一時的に思考力が著しく低下してしまいます。
ただ今回は、PC様方が自分達の世界にやってきた理由をなんとなく分かっているらしく、
滅多なことでは襲ってきませんのでご安心ください。
また、自分より強そうなものには極力近づかない、臆病な性質です。
血が大好物ですが、この世界にいる限り殆ど味わう機会はないので、
普段は、毛虫を捕まえて生きています。
クローネの世界では、キュートなぬいぐるみの姿に見せかけられていたとか。
皆さまがどんなふうに世界を再生させるのかを、楽しみにしております。
ご縁がありましたら何卒よろしくお願いいたします!