異世界クリエイター、始めました｜リアクション

異世界クリエイター、始めました

●ミミズと牛と育まれる大地

　顎に手を宛がって、志波甲斐斗はふむと唸った。
「まさか、本当に土と対話できる日がくるとは……」
　珍かな事態を前にしても動揺こそ見せないものの、興味深い、という感情は胸に湧き。
　甲斐斗はその場に膝を付けると、乾いた大地にそっと手のひらで触れた。
「初めまして。僕は、陶芸を職業としていまして……」
『初めまして、救世主殿。ところで、陶芸、とは？』
「粘土を使って、陶磁器を作ることです。ええと、陶磁器というのは……」
『ああ、大丈夫ですよ。それが何かはわかりませんが、あなたは土から、何かを生み出される方なんですね』
　敬意に溢れた言葉が、甲斐斗の胸をさやさやとくすぐったくさせる。
　気恥ずかしさを誤魔化すように小さく笑んで、「まあ、そうなります」と甲斐斗は応じた。
（こうして会話をする機会、まるで夢のようです）
　そんな想いに耽っていたら、『しかし……』と大地が口を開いた。
『私のような乾いた土からは、その、トウジキとやらは作れないのでしょうなあ』
　少し、残念そうな声だ。
　甲斐斗は僅かに眉を下げて、大地のカウンセリングを開始する。
「幾らか、質問をしても構いませんか？」
『ええ、勿論です』
「土の質はどうでしょうか？　粘土と砂の割合は……」
『ああ、それは――』
「わかりました。では、ここは雨が降りますか？」
『殆ど降りません。それでも、かつてはこの地にも、豊かな森があったんですよ』
「なるほど。以前は森が……」
　森があった時分の景色を、甲斐斗は想像することができなかった。
　大地と言葉を交わせば交わすほど、大地の荒れっぷりが、胸に堪える。
（ならば）
　甲斐斗は、空いている方の手のひらの中、金のタネへと眼差しを遣った。
（これも何かのご縁です。このタネ達は、この大地を整える為に使いましょう）
　さて何を作り出したらいいだろうかと、甲斐斗は目を瞑り、思考の底に沈んでいった。

　それから、１０分ほど後。
　目を開いて、甲斐斗は１粒目の金のタネに、願いを込めた。
　生まれたのは、鮮やかな青色をした、半透明の大型のミミズだ。
（まずは、固く乾いた大地を耕し、少しでも潤いを与えるように）
　抵抗手段を持たない代わりに、繁殖能力も高めておいた。
「しかし、これは……」

「……自分で作り出しておいてなんですが、人を選ぶ外見といいますか……」
　言いながら、近くの個体を、ちょん、と指で突いてみる。
　――ぷるぷる、ひやん。
　ひんやりと滑らかで弾力のある感触が、甲斐斗に、もう一度指を伸ばさせた。
「ぷよぷよしてひんやり冷たい……これはこれで癖になってしまいそうな……」
　ミミズ達は地面に穴を開けると、中へ中へと潜っていって――、
『お、おお……！』
　じきに、ミミズ達の活動に呼応したみたいに、大地が感嘆したような声を上げた。
　その声を耳に、甲斐斗は口元を和らげる。
「このミミズは、体から、水を出すんです」
『これは……とても、とても』
　大地の反応に一つ頷いて、甲斐斗は、次の種（しゅ）を生み出した。
　今度は、サッカーボールほどの大きさとまんまる具合の、もっふもふの牛だ。
「ふも！　もっふもっふ！」
　ボールみたいなもふもふ牛は、早速、ころころころりと転がり出した。
　何せ辺りには、彼らの主食であるミミズ達が、沢山いるのだ。
　全体的に可愛さも意識したが、それだけではない。
「もふもふの体毛は、植物のタネなどが絡みやすいようにスポンジ状なんです」
『ほう、ほう』
「タネの拡散に役立ってくれるでしょう。もちろん、糞は栄養がたっぷりです」
　今すぐに、魔法の如くに大地が豊かになるわけではない。けれど。
（他の方が創造した種（しゅ）と影響し合い、豊かな土地に戻れることを祈っていますよ）
　そんな願いを胸に、甲斐斗は、大地の表面を、柔らかく撫でた。

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